Friday, May 12, 2006

騎馬槍試合か、ボクシングか(質疑応答の作法)

発表が来週に迫ってきている。毎回、発表のたびに、課題をもって取り組もうとしている。少しでも内容をより豊かなものにしようといった一般的な注意点だけではなく、「めりはり、緩急をつけよう」とか、「聴衆の反応を見て難易度の調整をできるようになろう」とか。ほんのちょっとしたことなのだけれど、これがフランス語だと、日本語でよりもさらに難しくなる。

聴衆とのアイコンタクト以外にも大事なことはある。自分が発表者ではなく、質問者である場合。コロックのような場所での質問と、ゼミでの質問はやはり同じような仕方でするわけにはいかない。それぞれのTPOを考えつつ、掛け合いというか間合いを図るのが難しい。フランス語だから難しいというのもあるが、それぞれの分野の特徴のようなものを頭に入れておかないといけないので余計に難しいのだ。

私はしばしば「フランス哲学の質疑応答はjouteのようなものだ」と言う。joute(ジュート)とは、中世の騎馬槍試合のことである。この試合の目的は、相手をむやみやたらに突き殺すことにあるのではない。高度に儀式化され、形式化されたこのゲームの目的は、いかに優雅に相手の急所とされるところに軽く触れて見せるか、というところにあるのである。

フランス哲学者の保守本流たちの議論は、素人目には勝負がついていないように見える。お互いに優雅に称え合っているだけのようにも見える。しかし実際には、大抵の場合、勝負はついているのである。

科学哲学や古代哲学あるいはphilologieの分野では、事情はまったく異なる。これはボクシングである。すなわち、いかに的確に最も強い力で相手を打ちのめすことができるか、が重要なのである。しかし、さらに重要なことは、ボクシングはストリート・ファイト(喧嘩)ではない、ということだ。科学哲学者たちは「お前の言ってることはナンセンスだ」と言わんばかりの猛攻撃を仕掛けあうが、よほどのことがないかぎり、議論が終われば、後は仲良く飲み仲間になる。フランス哲学のほうは、飲み会のほうも限りなく社交界の縮小再生産である…。あんまり具体的に書けないけどね(笑)。

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