ブラジルから戻ってきた。サンパウロ(グアルーリョス空港)からニューヨーク(ニューアーク空港)までが8~9時間、合衆国の厳重な警戒体制のおかげでたかがトランジットのために5~6時間(乗り遅れないよう十分時間をとることを推奨された)、そしてニューヨークから東京(成田空港)まで12~13時間。ついでに成田から東京の自宅までほぼ2時間。全部合わせると24時間超。
ちなみに現在、ブラジルに行くには、ごく短期間でもヴィザが必要である。ブラジル総領事館のHPを見ると、日本は、アメリカなどと共に、先進国の中でブラジルがヴィザを要求する数少ない国の一つであることが分かる。アメリカの場合は、ブラジル人に厳しい入国管理が行われていることへの報復措置であることははっきりしている、とブラジルの友人たちは口を揃えていた。
労働力として必要不可欠であるにもかかわらず、ブラジル移民に厳しい入国管理を押し付けるという日本国政府の政策に対する対抗処置であることもまた自明であろう。ヴィザ申請は長い時間がかかる、面倒な作業だった。
それでも収穫ははかりしれない。ブラジルのベルクソン研究、ひいてはフランス哲学・思想研究が新たな展開を告げようとしている現場を目の当たりにできたのだから。
ブラジル篇については追々書いていく。まずは、私が東京(ヴィザ申請)とニューアーク(入国審査)で経験したこととまったく無縁でもない事態が現在日本で起こりつつあるという事実に注意を喚起しておきたい。このような側面を無視して、心穏やかに哲学が出来ると思ったら大間違いである。世界は動いているし、その動きに批判的に介入してこそ哲学は真の輝きを放つのだ。
《冒頭、司会の岩崎氏から、ハート来日をめぐる理不尽な事態に関して説明がなされた。ハート氏と夫人は成田空港からすんなり出ることができず、入国管理局で待機させられ、取り調べを受けた。事態を知った大学関係者たちが入管にすぐに駆け付け、証明書類を提出してハート氏が解放されたのは五時間後のことだったという。なるほど、G8サミット直前に批判的知識人の来日が敬遠されているということなのだろう。だがしかし、ハート氏の招聘はまずもって大学の学術交流の枠組みでなされていることであって、別に彼は過激な革命行動を扇動するために来日しているわけではない。
大学での自由な学術研究を阻害する、ひいては日本の学術の国際的な活力を削ぐ奇異な対応と言わざるを得ない。》
(西山雄二さんによる
【報告】マイケル・ハート講演会「記憶と残像のない新自由主義空間」より)
どれほど厳重に警戒しても、思想が国境を超えていくのを止めることはできない。自由な思想表明を封殺しようとするその身ぶりが現在の日本国家の民主度、自由度を如実に表している。