2013.12.25
フランスで"反アマゾン法"と呼ばれる法律案が国民議会(下院)で可決した。あとは元老院(上院)での承認を待つばかりだが、優先権は国民議会にあるのでほぼ成立間近というところだ。
この"反アマゾン法"というのは、すべてのインターネット書店に対して、送料無料で書籍を提供することを禁ずるというものだ。フランスにはラング法という書籍の値引きを5%以内と定める法律がある。値幅再販とも呼ばれているのだが、リアル書店であってもネット書店でも5%を超えて割引き販売することは禁じられているのだ(日本では一部業種に独占的に認められる再販制度があり、基本的に値引きはできない)。
アマゾンなどのネット書店は、これまで定価から5%を値引きした価格で、かつ送料無料で顧客に書籍を提供してきた。原則的に値引き販売できない日本でも送料無料のサービスは行っている。それは、送料無料はサービスの一環であって、小売業者の販売価格を縛る再販制度には引っかからない、そう考えられているからだ。
しかし、フランスはその上をいく理屈を出してきた。この送料無料がラング法の抜け穴をかいくぐって書籍を不当に安く販売している行為とみなしたのである。そして、送料無料の販売を禁じる、ラング法修正案を可決させた。
なぜフランスでは、こんな多少強引とも思えるこの理屈がまかり通ったのか?
筆者は、たまたま来日していたフランスの出版社社長に聞くと、「フランスの書店、とくにナンバーワンチェーンの『フナック』が熱心にロビー活動を行っていたからだろう。フランスでも書店の売り上げは落ちて、アマゾンの売り上げが上がっている。フナックも書籍の売り上げがアマゾンに追い抜かれるギリギリのところまできていた」とその背景を語っていた。
フランスでも書店経営は、厳しくなっているそうだ。その結果からか、給料が安いなどの理由もあり、今では好んで書店業に就く人はめずらしいという。こうした一般書店の経営を苦しめているひとつの原因がアマゾンの急成長にある。フランスでは、一般書店での顧客シェアの奪い合いが起こり、閉店が続出しているのだという。そこで、一般書店を保護するために、この法律がつくられたというのが実態のようだ。
果たして、日本で同様の運動が起きたとしたら、どうなるのだろうか? 「創業100年の老舗書店が閉店」などという報道が珍しくなくなってきた書店の苦境に同情して、世論はこうした法律に賛成してくれるのだろうか。おそらく現実には、そこまで甘くはないだろう。むしろ反対に「書店業界のエゴである」とか、「再販制度に守られた書店の保護法案は、消費者をないがしろにしている」などとバッシングを受けるだけだろう。
一方で、こんな法律を可決させるほどにフランス人が感じている、アマゾンの脅威とは何なのだろうか?
「将来的には本屋はなくなるだろう」と前出のフランス出版社社長は危惧する。しかも「本屋だけでなく、あらゆる小売り業の経営が厳しくなっていく。それほど、ジェフ・ベゾス氏(アマゾン社長)は世界中の商売にとって危険な人物。できる範囲で対抗した方がいい、まだできるうちに」と真顔で訴えていた。
大げさに思えるが、決して笑い話でもなさそうだ。
アメリカではアマゾンに対抗できる書店は、ボーダーズが倒産した今、もうバーンズ&ノーブルしか残っていない。しかし、「同社の株が安く売られている」などと言われ倒産の噂話もチラホラ出ているという。電子書籍の世界でも、アマゾンのホールセールモデル(価格決定権はアマゾンが持つ)に対抗したアップルと大手出版社のエージェンシーモデル(価格決定権は出版社がもつ)は司法省による民事訴訟の結果、反トラスト法違反とされた。日本においても、書籍・雑誌売り上げでアマゾンは、リアル・ネット書店に関わらず断トツである。もはや、出版業界は、アマゾンに依存しなければ売り上げが維持できないところにまできてしまったのだ。
さらに、それ以外でもアマゾンにとって優位な状況が世界各地で作られようとしている。
送料無料のサービスをめぐっては、日本でも問題が起こった。今やネット通販では送料無料が当たり前のようになっているのが現状だ。しかし、配送費の大幅な引き下げ問題で佐川急便がアマゾンとの取引を止めたことは記憶に新しい。
今はヤマト運輸と取引しているが、以前、ヤマト運輸にいた元幹部の話が忘れられない。「モノがA地点からB地点まで運ばれているのだから、送料無料はあり得ない。それは配送業そのものを否定することだ」と。
いわずもがな配送業務は対価の発生する作業である。流通事業者の心情を察すれば、送料を無料にするというのは、送料の分だけ値下げして読者に提供する行為であると主張するフランスの理屈もわからないではない。
しかし、ひとつだけ言えることがある。フランスの方が日本よりまともに、書店という業種を残そうと考えていることだ。日本には残念ながらまだそこまでの危機意識がない。というのも、電子書籍を販売する際に、アマゾンや楽天koboなどの海外事業者は消費税が非課税となっているのに、日本の業者が電子書籍を販売すると消費税がかかってしまう。こんなことすらすぐ是正できない。そんな政府が、書店という業種を本気で残そうなんて思っているはずがないのである。
(文/佐伯雄大)
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