Wednesday, January 22, 2014

【クリップ】モウリーニョとは圧倒的な差が。マンU低迷を招いた指揮官の人間力

モウリーニョとは圧倒的な差が。マンU低迷を招いた指揮官の人間力

フットボールチャンネル 1月21日(火)12時13分配信
カギとなる人心掌握術
 ともに1963年生まれの50歳だが、味方の選手のプレーに一喜一憂し、選手とともに戦っているかのように、サイドライン上で飛び跳ねていたポルトガル人闘将の隣で、モイーズはじっと腕組みをし、やや猫背の姿勢で神経質そうに試合を覗き込んでいた。

 そして自軍の選手がミスを犯すと、すぐさまダッグアウトに振り向き、自分の欲求不満をぶつけるような険しい口調でコーチ陣に何かを言う。

 このレベルのチームになると、戦略面よりマン・マネージメント、つまり掌握力が監督の成功の鍵になるといわれるが、この日のモウリーニョとモイーズの後ろ姿を比較して、その監督としての人間的魅力の差は明らかだった。

 どっちが優れているかはあえて記す必要もないだろう。この監督の資質の差が、ドルトムント時代から続いていた香川真司の欧州リーグ連続優勝記録を「3」でストップさせる最大の原因になるのかも知れない。
森昌利


リアルな数字『3.5倍』にまでなった解任オッズ。モイーズ監督はなぜマンUを“常勝”気流に乗せられないのか?

2013年12月10日
text by 森昌利 photo Kazhito Yamada / Kaz Photography

今季にない“攻めだるまモード”

リアルな数字『3.5倍』にまでなった解任オッズ。モイーズ監督はなぜマンUを“常勝”気流に乗せられないのか?
前監督であるファーガソンに対し香川も昨季「こんなに怒る人だとは思わなかった」と話す【写真:Kazhito Yamada / Kaz Photography】
 今季のマンチェスター・ユナイテッドの試合を観ていてまず痛感するのが、ギアが変わらないということだ。ギアが変わるというのは、プレースピードが上がるということ。昨季までのマンチェスター・ユナイテッドは、このメリハリがものすごいチームだった。
 凡庸な前半だったと思っても、後半は選手が見違えたように動きはじめた。プレーのテンポが如実に上がり、相手のDFを崩しはじめる。一度ゴールを決めてしまえば、試合はそこまで。そこからは“赤い悪魔”と化したマンチェスター・ユナイテッドが次々とゴールを奪って、最終的には大勝。そんな試合ばかりだった。
 まるで喧嘩神輿を見ているような攻撃。わっしょいわっしょいと、攻めだるまになる。1点や2点相手がリードしていても、一度マンチェスター・ユナイテッドがこの“攻めだるまモード”になったら止められない。最後には必ず勝利を握った。
 ギアを変えたのは、間違いなくファーガソン監督だった。
 ハーフタイムには有名な「ヘアードライヤー・トリートメント」(熱風療法)と呼ばれる叱咤激励があった。
 香川も昨季「こんなに怒る人だとは思わなかった」と話し、ファーガソン監督と過ごした凄まじいハーフタイムを述懐しているが、前半でミスを犯した選手、やる気が見えなかった選手は、烈火の如く激怒したスコットランド人が鼻先まで顔を近づけて来て、この世で考えられる最悪の罵倒の言葉とともに、叱咤されたという。
 
 そのファーガソン監督は、昨年、アメリカのハーバード大学の講演会でこう述べていた。「マンチェスター・ユナイテッド監督に就任した際、絶対に自分より上の存在をクラブ内に作ってはならないと、そう決意した」と。

ファーガソンが築いた絶対王政

 そんな燃えるような誓いを立てて、45歳のスコットランド人がマンチェスター・ユナイテッドにやって来た。そしてその後、26年間の監督生活を通じてこの言葉を実践し続けた。
 この禁に触れたものはことごとくクラブを去った。2003年のディビッド・ベッカムがその最も有名な犠牲者だろう。
 まさしく帝王的な存在だった。そんなファーガソン監督の叱咤がどれだけ効果的だったことか。もちろん、前監督が希代のモチベーターだったことは否定しない。しかし、その背景として、サポーターが「クラブにとって誰よりも重要な人間」と忠誠を誓い、オーナーのグレイザー一家さえも足元にひれ伏した“絶対的監督”という立場があった。
 ロナウドを例外(しかし、個人的にはマンチェスター・ユナイテッドに残っていればさらなる栄光に包まれた可能性はあると思う)にして、ファーガソン監督にクラブを追われたスター選手の大半が、かつての輝きを取り戻すことなく静かに消えていった。その事実が闘将の神通力をさらに強めた。
 こんな監督の下なら、文字通り選手も死ぬ気でプレーしたことだろう。もちろん、ハーフタイムに怒りの標的になるのはまっぴらだったに違いない。こうしたファーガソン監督の存在が、マンチェスター・ユナイテッドの選手達に大量のアドレナリンを放出させた。
 一方モイーズといえば、マンチェスター・ユナイテッド監督に就任以来、印象が変わった。エヴァートン監督時代はもっとぴりぴりして、取っ付きにくい存在だった。
 昨季の開幕戦、香川のプレミア・デビュー戦だったモイーズにひとつ質問した。「マンチェスター・ユナイテッドの新加入選手の印象は?」と。すると気難しい狐のようなとがった顔をしたスコットランド人は、「マンチェスター・ユナイテッドが獲ったんだから、いい選手なんだろう」と、気のない返事を返したものだ。
 翌日の日本の新聞はこのコメントで、「敵将も香川を『いい選手』と褒めた」という記事を作っていたが、正直その答え方は「そんなこと俺の知ったことじゃない」というものだった。
 ところがマンチェスター・ユナイテッドの監督に就任してから、モイーズの対応は変わった。かなり友好的になったと思う。

前監督の返り咲きオッズは現実的な数字の“6.5倍”

 しかし優勝できなかった6年間で、40代後半だった精力的な闘将は、酒やギャンブルに溺れたスター選手を一掃すると、チームに規律をもたらし、自分が絶対的な影響力を持つ若手をどんどん起用した。
 ベッカムは、子供時代から愛したマンチェスター・ユナイテッドを追われるように去ったが、その後もことあるごとにファーガソン監督を「父親的な存在」と呼んで慕った。それは黄金時代にチームを支えた大半の選手が抱いた思いだっただろう。
 彼らは闘将をサッカー上の父親として慕い、恐れたのだ。
 ファーガソン監督は、1992年にFA杯を優勝し、解任すれすれの状態を脱すると、翌93年、「プレミア」として生まれ変わった英1部リーグを制し、その後20年間に渡る黄金時代を作った。
 一方モイーズの場合は、ファーガソン監督とは真逆の状態でマンチェスター・ユナイテッドの監督を引き継いだ。同郷であるグラスゴーの大先輩監督は、全てを勝ち取っていた。クラブ・サッカー史上、監督として、まさしく史上最高の成績と栄光に包まれて引退。そんな大監督に忠誠を誓ったサポーター達は、後任監督も勝って当然という意識でいる。
 そんな環境で、表向きには昨季優勝した戦力を渡されたが、前監督が“強い父親”として選手に絶対服従を強いた人間関係と、クラブの意思決定における絶対的な権限までは引き継いでいない。
 ホーム2連敗でモイーズの解任オッズはがくんと下がった。年内の解任は5倍。今季一杯では3.5倍。そしてファーガソン監督の返り咲きオッズは6.5倍だという。これはかなり現実味を帯びた倍率だ。
 ということは、少なくとも英ブックメーカーは、モイーズには“6年間の無冠は許されていない”と考えていることが分かる。
 それどころか、アストンビラ(15日A)、ウエストハム(21日H)、ハル(26日A)、ノリッジ(28日A)と続く下位チームとの対戦でひどい取りこぼしがあれば、あっと驚く更迭もあると見ている。
 その最悪の事態を避けるには、まずはモイーズがエヴァートン時代の気難しい戦略家に戻り、現在のボスが誰なのか、選手に思い知らせる必要があるのではないだろうか。
【了】

モイーズもいずれ追随する?! マンU前監督ファーガソンはなぜ批判されなかったのか?

マンチェスター・ユナイテッドの前監督アレックス・ファーガソン。チームの調子が上がらない時期もあったが、批判は驚くほど少なかった。27年の長期政権の裏に隠された、ファギー流メディア統制術に迫る。
2013年12月06日
text by 鈴木英寿 photo Kazhito Yamada / Kaz Photography

たとえBBCでも徹底抗戦

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カップを掲げる有終の美を飾ったファギー【写真:Kazhito Yamada / Kaz Photography】
「彼の最後の会見で、我々メディアは拍手をするのだろうか?」
 マンチェスター・ユナイテッドの試合を数多く取材してきた『タイムズ』紙のチーフライター、オリバー・ケイ記者はアレックス・ファーガソン退任を前に、そう寄稿している。
 何しろ、このスコットランド人指揮官のキャリアは、英国メディアとの戦いの連続だったのだ。メディア関係者の多くが、「彼と親しい記者はいない」と証言しているほどに。
 ルールを守らない記者は問答無用で出入り禁止(ただし、時限措置が多く、たいていは2週間程度の“イエローカード”)。
 また、相手がたとえ国営放送BBCであっても、とことん戦った。
 2004年、BBCは『父と息子』というドキュメンタリー番組において、ファーガソンが息子のジェイソン(選手代理人)への利益誘導を行っていると報道。これに激怒したファーガソンは、2011年8月の和解まで、BBCのインタビューを一切受け付けなかった。
 プレミアリーグの試合後の記者会見も常にボイコット。地元記者たちは、プレスラウンジのTVに映るインタビュー(スカイ、クラブ公式TV)の映像を拾い、翌日の記事の素材にしている。
 なぜ、ファーガソンはそれほどまでの緊張関係を取材者に強いたのか。

まるでマフィアのボス。恐怖政治でメディア支配

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記者のつかみ方はまるでマフィアのボス?【写真:Kazhito Yamada / Kaz Photography】
 一説には、記者陣に「心理戦」を仕掛け、自らに好意的な報道を促したとの見方もある。他監督とのマインドゲームはあまりにも有名な彼一流の心理戦術だが、日常的に接するメディア陣にもそれを仕掛けていた、という見立てだ。
 メディアの過剰な批判報道により、パフォーマンスを落とすクラブはこれまで数多く存在した。それゆえ、フットボール報道がエンターテイメントとみなされるサッカーの母国では、なおのこと、メディア管理がそのまま重要なチーム管理術になると言える。
 試合前の会見はファギーにとっては、一歩たりとも譲歩できない鉄火場だったのである。
 オールド・トラッフォードの会見場に現れた指揮官は、赤ら顔で登場。まずは会場の記者陣をひと睨み。席につくと憮然とした表情で一問一答に応じる。そして、突如として表情を崩すとジョークで笑いをとる。
 そして、再び憮然とした表情。質問が一通り終わり、指揮官が会場から去ると、隣に座った地元記者から「今日は機嫌が良かったな……」との安堵のつぶやきが聞こえてきた日もあった。
 その“つかみ方”はまるでマフィアのボスのようであった。
 とはいえ、ファーガソンは過去に行った記者の出入り禁止措置に対し、個人的な感情は一切なかったと語っている。そう、すべてはチームの勝利のための戦略だったのだ。
 そのことを地元記者たちも理解していたからこそ、クラブの練習場であるカーリントンでの最後の試合前会見では、すべての記者が万雷の拍手でこの名将を送り出したのだろう。
【了】

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