Monday, April 14, 2014

【クリップ】リクナビ「エントリーあおり」の実態とは?

画像
リクナビ「エントリーあおり」の実態とは?
 日本最大の新卒向け就職活動サイト「リクナビ」が揺れている。就活生に、大量の企業に「エントリー」するよう勧める機能が露骨で、「エントリーあおり」だと批判を集めているのだ。

 2015年卒生向けの「リクナビ2015」では、数十~100社もの企業に一括エントリーできる「まとめてエントリー」ボタンを随所に配置。「内定獲得した先輩はもっとエントリーしています」とグラフを見せ、さらにエントリーを増やすよう促すなど、過剰なまでにエントリーを推奨している。

 この“エントリーあおり”に、就活生もあきれ顔。ドワンゴの川上量生会長が「企業も学生も疲弊する」と名指しで批判するなど、新卒を採用する企業からの批判も起きている。

 リクナビでエントリーを“あおる”背景には、何があるのか。運営するリクルートキャリアや、就活生、関係者への取材から探った。

■ エントリーは「申し込み」ではなく「資料請求」

 前提として、「エントリー」の意味を確認しておこう。リクナビで言う「エントリー」は「資料請求」の意味であり、応募(エントリーシートの提出)ではない。これが混同され、一部で的外れな批判が起きている側面はある。(…)

 リクルートキャリアの調査によると、2014年卒就活生のエントリー数の平均は60.1社、応募数は20.1社と、実際の応募数はエントリー数の3分の1程度にとどまっている。
■ 「100社一括エントリー」「内定獲得した先輩に追いつく! 」

 “エントリーあおり”の実態を調査するため、3月末にリクナビ2015に登録してみたところ、その一括エントリー推しの勢いに驚いた。「まとめてエントリー」ボタンが、あらゆるメニューに設置されているのだ。(…)

 この画面をやり過ごし、リクナビトップページを表示してもなお、一括エントリーボタンはさまざまな場所で待ち構えている。たとえば、「あなたの行動・志向にあわせておすすめ100社をピックアップ」というメニューや、「あなたの同期が直近エントリーした企業一覧」「あなた向けのもれなくエントリーしておきたい企業特集」などで、それぞれ、100社前後に「まとめてエントリー」できるボタンが大きく配置されている。

 しかし、まだ氏名と学校名しか登録していない段階で、「行動・志向にあわせた」お勧め100社が表示されるには驚いた。いったい、どんな行動・志向を見ているのだろうか……。
(…)

■ 人事担当者の評価に響く「エントリー数」

 「多くの企業を研究してほしい」と言っても、一度に100社にエントリーできる機能を乱立させるのはやり過ぎではないだろうか。市場環境とリクナビのビジネスモデルを照らし合わせると、リクナビがエントリーを“あおらざるをえない”状況も見えてくる。

 リクナビは、新卒採用企業から情報掲載料を受け取って収益を上げている。掲載費は基本料金だけで120万円。オプションを加えると200万~300万円と、費用は天井知らずだ。大金をかけて求人広告を掲載する企業は、多くの就活生に自社の採用情報を見てもらい、エントリーしてもらうことを期待する。エントリー数を保証したり、エントリーごとに課金しているわけでないが、エントリー数はリクナビの“商品力”を左右する重要なファクターだ。

実際、企業の採用担当者向けのPRサイトには、「100人規模のわが社に1089人からのエントリー。驚きました」「リクナビの確かな実績でエントリー数最大化」など、リクナビを使えばいかにエントリー数を稼げるかを強調。岡崎所長も、「(エントリーの)母集団を集めたいというニーズが企業側にあることは確か。母集団が集まらない企業に、学生の視野を広げて向かせたいという思いはある」と認める。

 だが、今の市場環境で、学生のエントリー数を稼ぐのは簡単ではない。景気回復の影響もあり、ナビサイトへの登録社数は激増(「リクナビ2015」の2013年12月時点の登録社数は前年比26%増、「マイナビ2015」は前年比53%増)。1社当たりの採用予定数も増えている一方で、少子化の影響で新卒の学生数は横ばいから微減にとどまる。つまり、学生1人当たりのエントリー数を急拡大させないかぎり、1社当たりのエントリー数を横ばいに持ってくることすらできない。

 新卒者という供給は拡大しないのに、需要が激増するという市場環境の中、リクナビが登録企業に対し、エントリー数という「掲載効果」を返すには、学生に大量にエントリーさせる「一括エントリー」を強調する必要があったのでは――そんなふうにも考えられる。

 採用活動を行う人事担当者の社内評価が、エントリー数の多寡で決まるケースも少なくないという。本来は、採用した人材の働きぶりで評価するべきだが、結果が出るまで数年かかり、評価基準も難しい。一方で、エントリー数なら短期で結果が出、数字というわかりやすい指標で評価できるため。「エントリー数で判断して褒められる、出世するという構造があるかぎり、今後も事態は変わらないのでは」と、関係者は打ち明ける。

■ 就活サイトを使うのは「負け組」? 

 ここ数年は、就活生・企業とも“就活ナビ離れ”が進んでいるといわれる。就活生のリクナビ登録率は例年100%に近く、下がってはいないのだが、その依存度は低下しているようだ。

 今回、筆者が話を聞いた2012~14年卒生7人のうち5人が、「そもそもリクナビをほとんど使わなかった」と話していた。リクナビ経由でないと応募できない企業があるため、登録はするものの、就職先選びには使わなかったという。

 彼らの就活ルートは、(1)大手や知っている企業だけを受ける、(2)アルバイト先のWeb企業などにそのまま就職、(3)先輩や同級生が受けた企業を受けた、(4)インターン先の企業にそのまま内定した――など。資料請求してエントリーし、面接を受ける――という“普通の就活”の枠から離れた採用形態が増えているようだ。

 「本当に優秀な学生は就活サイトを使わずに、夏季インターンなどで青田買いされたり、学生時代のイベントなどでヘッドハンティングされていました。そうした事例をみていたので、就活サイト経由で就活する時点で、ある種“負け組”感があると思っていました」(13年卒・男)。

 この傾向は、企業の就活ナビ離れの裏返しでもある。ただでさえ万単位のエントリーが届く人気企業は、就活ナビサイトを利用すると、さらにエントリーが増えてさばききれなくなったり、志望度の低い学生に応募されるなどデメリットが大きい。このため、自社サイトのみの採用に切り替えるなど、ナビサイトに頼らない採用手法にシフトしている。
 ドワンゴもそんな企業のひとつだ。就活サイトからの一括エントリーなどでひとりの学生が数多くの企業の採用試験を受けられる状況の中、「採用の手間ばかりが増えて、本当に必要な人材を見極める十分な時間をかけることが難しい」とし、志望者を絞り込むために2525円の受験料を徴収するなど、新しい採用の形にチャレンジしている。

■ 揺らぐ「就活サイトナンバーワン」

 学生を“指名買い”できるのは、都内を中心とした大手企業やトップ企業に限られており、都内の企業のインターンやアルバイトに参加できるのも、都内近郊の学生に限られるという側面もある。筆者が話を聞いたうち、「リクナビをほとんど使っていなかった」と答えたのは、都内の有名大学を出て、都内で就職した人だった。(…)

 就活ナビサイトのあり方そのものが問われている中、リクナビは2015年版で初めて、ライバルのマイナビに掲載企業数で抜かれ、“就活サイトナンバーワン”の座も揺らぎつつある。安易なエントリー数稼ぎに走らず、就活を本当の意味で支援するサイトになれるか――あらためてその姿勢が問われている。
 (※一部機能について記述に不正確な点があったため、該当箇所を一部修正、削除いたしました。)

No comments: