Saturday, August 21, 2021

vocationに悩む

よく出てくる研究書なのに、実のところタイトルをどう訳すべきなのかよく分からぬままにやり過ごしてしまっていることが多い。Jean GuittonのLa vocation de Bergson (Gallimard, 1960)もそんな一冊である。

まずこのvocationという語が、きわめて多義的であるうえに、一つ一つの意味も、煎じ詰めて考えてみると、よく分からない。試しに『小学館ロベール仏和大辞典』を引いてみると、「①(生来の)好み、性向、適性、②使命、天職、(本来の)目的、用途、③【神学】神のお召し、召命」などとなっている。

そういうわけで、『ベルクソンの召命』とか『ベルクソンの使命』などと「③寄りの②」の感じで訳されることが多く、それでなんとなく分かった気になって、やり過ごしてしまうのである。

がしかし、それは要するにどういう意味なのか?「召命」はあまりに「訳語」チックで、単独で意味が取れないうえに、そもそもキリスト教の文脈が強すぎる。「使命」は、意味は分かるのだが、何だか「行け、ベルクソンよ!」的な勇壮な感じがしてしまう(気がする)。ただし、ギトンはキリスト教的なニュアンスを濃厚に漂わせているので、そういう意味ではそれほど外してはいないのだが、、、

そもそもこの本は、アカデミー・フランセーズのHenri Mondorが手がけた叢書vocationsの9冊目として刊行された著作であって、それ以前のラインナップ(7タイトル、8冊)を見ると、どうやら有名な作家の青年時代に焦点を当てようとしているらしいことが分かる。

André Bellivier, Henri Poincaré ou la vocation souveraine.

Jean Dellay, La Jeunesse d'André Gide. (2 vol.)

Pierre Flottes, L'Eveil de Victor Hugo (1802-1822).

Henri Mondor, Mallarmé lycéen.

Edouard Rist, La jeunesse de Laënnec.

Géraud Venzac, Jeux d'ombre et de lumière sur la jeunesse d'André Chénier.

そうすると、意味的には「①寄りの②」で訳したいところだが、『ベルクソンの好み・性向』ではファンブックみたいだし、『ベルクソンの適性』ではキャリア教育の指南書のようだし、『ベルクソンの天職』も今一つ、である。(続く)


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