Friday, March 09, 2007

制度の唯物論(脱構築の前に構築を!)

まだまだ先だと思っていたら、仏文学会用の論文の締め切りが迫っていた。この数日、慌てて見直し。日仏哲学会よりは紙数に余裕があるので、割と細部まで盛り込める。というわけで、「催眠」論文脱稿。後は結果を待つのみ。



コレギウムとは何か」の項に、尊敬するmurakamiさんからコメントをいただいた。

そうですね、私にもどうすればいいのか分かりませんが、おそらく劇的な治療法はないのでしょうね。

ただ、解決策はないとしても、地道な対処法はあります。例えば、学術雑誌の作り方です。

仏文学会の雑誌『フランス語フランス文学研究』は、学会発表を行なった者の中で選抜を行ない、研究論文を書く権利を与えるのですが、その際、フランス語論文8本、日本語論文4本と定められています。

つまり、日本語論文の数を少なく限定しているのです。仏文学会が本当のところ、どういう「意図」でこの比率を決定しているのかは知りませんが、執筆者に与える「効果」は明白です。掲載されたければ、フランス語で執筆したほうが圧倒的に可能性が上がるのです。

こうして制度が意識を少しずつ変えていき、仏語能力の地道な向上につながっていく、という「制度の唯物論」(笑)があるわけです。

翻って、例えば日仏哲学会の雑誌『フランス哲学・思想研究』はどうでしょうか?

(他の人にも誤解のないように言っておくと、もちろん両雑誌の内容や質を云々しているわけではありません。言語の問題を論じているのです。)

まず言語による「枠」がありません。そうなると、結果は火を見るより明らかです。最新号である第11号を見てみると、仏語論文は公募論文7本中2本。一本はフランス人(前述の西田研究者のDalissierさん)、もう一本は私です。

むろん、これは学会の規模、それぞれのmilieuがもつ雰囲気というものも大きく関係しています。仏文学会は日本のフランス系の学会でおそらく最も規模が大きく、最も国際的に活躍している学会であり(現在の国際仏文学会の会長は、日本の仏文学会の会長である塩川徹也先生です)、フランス語で書くことが半ば自明視されているmilieuです。もともと仏語で書ける人が一定数以上いないと、せっかくの理想的な制度も成り立たないということはあります。

しかし、いずれにせよ、制度の善用とは言わないまでも、制度というものの持つ力をもっと積極的に活用すべきではないか、少なくとももっと意識的になるべきではないだろうか、と私は思っています。日本版アグレグを夢見るのも、そういうところから来ています(これについては、これまで断片的にこのブログに書いてきました)。

哲学科(フランス系)の人は仏文科の人から、仏文科は哲学科から、もっといろんなことを学べるのではないかと私は思っているのですが、なかなかどちらにも聞いてもらえません。ドイツ哲学と独文より親密な関係を築く可能性があるようにも思われるだけに、残念なことです。

コレギウムの話、ご一緒に進めていければこんなに嬉しいことはありません。実はもう若干進めつつあります。今度お会いしたときにでもお話しできれば。 hf

2 comments:

Anonymous said...

hfさん、こんにちは。たびたびすみません。
尊敬されるようなことはしてないので恐縮してしまいます。
hfさんは精力的で、視野が大きくてえらいです。僕はしこしこ狭いところでやってるだけですので。
『日仏哲学会』の機関誌にフランス語で出されたのはひょっとして前代未聞なのでは。

今回のエントリも重要な問題提起です。
仏文学会と哲学系学会では制度的な背景がまったく異なるので、いろいろと難しそうですが。

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僕が関わっている「フッサール研究会」でも機関誌を欧文化しようと提案したことがあります。何人かの方からはご賛同を得たのですが、結局実際に書き手として想定している若手の盛り上がりに欠けました。

とはいえ、現象学の小さな世界の中でも海外で積極的に書いている方は何人かいますし、国際的なネットワークが整備されつつあるので、これから機会が多くなるのも間違いありません。

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英文のウェブジャーナルを立ち上げて、たとえばOPO(http://www.o-p-o.net/)に多少のお金を払ってnewsletter of phenomenologyに登録するのが現実的かもしれません。こちらを参照:
http://groups.yahoo.com/group/newsletter_of_phenomenology/message/207

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hfさんの考察の帰結は、コレギウムを成功させるためには、(1)フランス人を複数呼ぶこと(2)仏文系の語学の堪能な若手も巻き込むこと、が必要だ、ということですね。
幸い、駒場の僕の後輩たちも積極的に哲学系の学会とコンタクトをとっているようなので(僕の時代には想像すらできなかったことですが)、おそらく他の大学でも可能性はふくらんできているのでしょう。

今度お会いしたときにお話ししましょう。

Anonymous said...

http://philosophy.cognitom.com/exec/page/page20050703222358/