飛行機の中で、『教育民主化の袋小路。「理科系の危機」について』という本を少し読んだ。
Bernard Convert, Les impasses de la démocratisation scolaire. Sur une prétendue crise des vocations scientifiques, éd. Raisons d'agir, octobre 2006.
内容をかいつまんで説明しておくと――
≪近年、理科系離れの進むフランスは、世界的な科学技術競争で後れをとっている。これはおおよそ事実だが、その説明とされる主張は完全に誤っている。いわく「嫌いになったから」、「怠けるようになったから」、最近の子供たちは、理科系の授業の厳しさから逃げ出すようになった、というのである。
フランスの大学における理科系離れの兆候は、1990年代中頃に現れた。物理学と化学、次いで生物学と数学。この現象には歯止めがかからず、教員たちは懸念を表明し始めた。事が公になると、ジャーナリストや政治家がさまざまな説明を付け始める。時の文科相[ministre de la Recherche]は、科学に対する「意欲の欠如」だと「説明」した。この手の分かりやすい説明は、多くの人々の賛同を得やすく、反論するのが不可能なほど曖昧模糊としているので(「努力しようという意欲の喪失」などなど)、またたく間に広まってしまった。
モリエールの医者たちが説明に持ち出したvirtus dormitivaの現代版[日本で言えば「昔は空き地があり、ガキ大将がいたから、いじめがなかった」というアレな説明である]には大きく分けて三つある。
一つは、イメージの問題である。科学技術の進歩が問題解決よりもむしろ解決不可能な問題を量産することに役立ってしまっている、というのである。だが、各種世論調査が示しているように、科学や科学者という職業は常に非常な敬意の対象となっているし、それより何より、大半の生徒たちはそういった「イメージ」で進路選択をしているわけではない。
二つ目は、教育の問題である。科学教育は、アカデミックすぎる、堅すぎる、例えば最近の物理学は過度の数学化が進み、素朴な好奇心や直にものに触れ、実験するという姿勢を忘れてしまった、というのである[有馬…]。この問題は、結局は、次の三つ目の問題と結びついている。
要するに、現在の理科教育は難しすぎる、だからより「易しい」、より「報われる」学問が選ばれるのだ、理科系の学問は学者として成功するのが最も難しい学問だ、というわけである。だが、この手の主張は説明すべき事柄を先延ばしにしたにすぎない。理科系の学問に「難しい」というイメージがあるのは今に始まったことではない。ならば説明すべきは、二十年前より易しい内容を教えているはずの今日の理科系からなぜ学生は離れていくのか、ということであるべきだろう。
これらの説明が不十分であるのは、見定めるべき「兆候」を見誤っているからである。理科系に進学する学生数の減少に目がくらみ、国を支える科学・技術の未来を憂えて、ジャーナリストや政治家、有識者たちは、この現象に過度に注目しすぎているのである。生徒たちが理科系に進まなくなったのは、科学に不満を持っているからだ、科学が好きでなくなったのだ、イメージだ、教育だ、難しすぎる…
だが、この事態において本当に問題になっているのは「理科系」なのだろうか?筆者コンヴェールの主張はこうだ。
いわゆる「理科系離れ」の背後には、実は、1980年代末に始まった高等教育の変化が潜んでいる。行政当局の圧力と、数を増す一方の生徒(そして親)の要望に圧され、大学は、企業の要求に応える即戦力教育(formations professionnalisées)を重視し、いわゆる純粋理論系の基礎研究を疎かにしてきた[言うまでもないが、金になる基礎研究は別である]。
1990年から2000年までの高等教育への進学内訳を見てみると、興味深い事実が浮かび上がる。それは、生徒たちが離れていったのは「理科系」ではなく、「大学全体」だということ[ここには特殊フランス的な要因があり、日本と単純比較はできない]、より正確に言えば、大学で教えられる「理論的な学問全体」だということである。すなわち文学、人文学、経済学、法学もまた、まったく同じ時期に入学者数が減少に転じているのだ。これらの学問も突如として「イメージ」が悪くなったり、突如「難しく」なったり、突如教育を見直さねばならなくなったのだろうか?
理科系離れは、現在なお進んでいるより大きな現象の一要素にすぎず、このグローバルな現象をこそ解明せねばならないのである。≫
日本には、「理科系離れ」の神話よりさらに厄介な神話もあるわけだが。。
理科専科教員の設置、「道徳」教科化…教育再生3次報告
12月25日22時42分配信 読売新聞
政府の教育再生会議(野依良治座長)は25日、首相官邸で総会を開き、理科教育強化のために理科専科教員の設置を進めることや小中学校で「道徳」の教科化などを柱とした第3次報告を決定し、福田首相に提出した。
同会議は来年1月、これまで3回の報告を踏まえ、最終報告を取りまとめる予定だ。 第3次報告は、「公教育の再生」を掲げ、<1>学力の向上<2>徳育と体育の重視<3>大学・大学院の抜本改革<4>学校の責任体制の確立――などを重点課題とした。
具体的には、2006年国際学習到達度調査(略称PISA)などで、理数系の学力水準が低下していることを踏まえ、小学校高学年に理科専科教員の設置を進めるなど、理科教育の強化を打ち出した。さらに、学力向上に向けた意見交換のため、各都道府県の代表者による「全国教育再生会議」の開催を提案した。
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