「フェティッシュ」という語の起源と「フェティシズム」という概念の発明
「フェティッシュ」という語は、ポルトガル語のfeiticoから来ている。このfeitico自体は、「人工の」を意味し人間の巧みと自然との共同制作物であるものに適用されるラテン語のfacticiusに由来する。その自然でないほうの[人間に関わる]構成要素において、このポルトガル語は、「作られた」ないしは「偽の」「後から付け加えた」あるいはさらに「模倣された」を意味する。feiticoという語における偽と作られたもののこの両義性は、実詞・名詞として用いられ、「妖術」という観念に行き着いたのであった。
この語の起源はしたがってヨーロッパである。「フェティッシュ」は、15・16世紀にギニア及び西アフリカの諸民族・諸文明の崇拝対象や信心業に対して白人たちが与えた名である。
「フェティシズム」という観念については事情が異なる。「未開」で「野蛮」な諸民族の宗教に関する一般理論の概念であるこの語は、ようやく1760年に、[ディジョンの議会の]議長シャルル・ド・ブロッスによって匿名で公刊された試論『フェティッシュな神々の崇拝について』の中に登場したに過ぎないのである。
「フェティッシュ」という語の誕生と「フェティシズム」という語の登場とを隔てる期間には、当初ギニアというきちんと限定された文脈において精錬されていた「フェティッシュ」という観念が、普及と一般化の過程を経て、ついには「未開」で「野蛮」な諸民族・諸文明の全体に適用されるに至る、といった事態が観察され把握される。白人の植民地化の進展が、社会的・人間的進化の階梯の第一段階に割り当てられてしまった諸民族・諸文明の表象を理論的・イデオロギー的なレヴェルで等質化することを推進したのである。「フェティッシュ」という観念と「フェティシズム」という概念は、宗教の領域において、この植民地主義的イデオロギーに心地よいものであったはずである。「フェティッシュ」という呼称の下にヨーロッパ人たちが指し示した崇拝対象は、「他者」に関する白人たちの文化的先入観に従って社会的・知的原始性の一条件として現われるものに対応していたのである。
したがって、18世紀にシャルル・ド・ブロッスが、人類の原始的崇拝と考えていたものを指し示すためにフェティシズムという概念を発明し用いたとき、彼の行なった理論的一般化は、発見と征服、そして近代的植民地化の過程全体においてヨーロッパで流通していた諸観念の普及の結果である。ド・ブロッスは、彼のフェティシズム理論において3つの要素をまとめて一つにしてしまっている。まず、古代の諸民族と現代の「野蛮」な諸民族とにおける宗教・慣例・習俗の合致という観念と共に、比較研究という方法がもたらす諸結果。次に、「野蛮」な諸民族の発見に端を発した、人類の起源に関する彼の同時代の喧しい議論の諸帰結。そして最後に、進歩というイデオロギーである。
(アルフォンソ・イアコノ著、『フェティシズム、ある概念の歴史』、原著5-7頁)
ファン・ダーレ、フォントネル、ベッカー:様々な信仰の合致、人間本性の一様さ
フェティッシュという観念からフェティシズムという観念へと至る過程を理解するためには、17世紀と18世紀、すなわち史実の記述・説明から超自然的な存在(神や悪魔など)への依拠を取り除くことに努めた時代の哲学的思索の領域を考慮に入れねばならない。つまりホッブズあるいはスピノザが諸民族の宗教・信仰の起源の問題について議論し、オランダ人アントニウス・ファン・ダーレが1683年に―カトリック信者たちとの論争において―悪魔はいささかもoraclesの中心人物ではなく、oraclesはキリスト教の誕生以後、存在しなくなったなどと言うのは誤りであると書いていた、当時の文脈を考慮に入れねばならないのである。フォントネルは、オランダ語で書かれたこのファン・ダーレの著作の翻案に他ならない『oracles の歴史』を1686年に公刊して、ファン・ダーレの説の大々的な普及を確固たるものとした。ファン・ダーレとフォントネルの貢献は、歴史解釈の領域から悪魔を取り除いたことにあった。神学の対象と信仰に関する研究の対象との分離へと向かうきわめて重要な一歩が踏み出されたのである。信仰は、人間本性の振る舞いに関する研究の領域へと持ち込まれることになった。偽の信仰の原因に関する問題に対しては、これ以後は、人間本性の定義の諸限界の中で答えればよいことになったのである。したがって歴史解釈と哲学理論との間にある結合関係が築かれることになるだろう。この結びつきは18世紀の思想の典型をなし、比較研究の発展の二つの軸の一つを規定することになるであろう。人間本性とその一様な諸原理に関する定義は、空間的にも時間的にも互いに遠く隔たっている諸民族の種々の信仰・習俗・慣習の比較に関する理論的基礎となるであろう。
もう一人のオランダ人、バルタザール・ベッカーは、『魔法をかけられた世界』と題して、古代の異教と「野蛮人たち」の宗教との比較分析を1691年に発表する。ベッカーの比較は包括的で、古代の諸民族と「野蛮」な諸民族の全体に適用されている。ギニアのfetissoは、アフリカやアメリカの他の「野蛮」な諸民族の(…)
(アルフォンソ・イアコノ著、『フェティシズム、ある概念の歴史』、原著7-10頁)
3 comments:
PPDAです。
偶然、balthasar Bekkerの日本読みサンプルを探していたら辿り着きました。オランダ語でもベッカーと読むんですね。
PPDAです。
偶然、balthasar Bekkerの日本語読みを探していたら辿りつきました。オランダ語でもベッカーと読むんだね。
いや、どうでしょう(笑)、ずいぶん昔のことなんで、きちんとオランダ語の発音を調べたのかどうか忘れてしまいました。
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