Wednesday, November 01, 2006

Master Mundus、あるいは無限の後退戦を戦い抜くこと

数ヶ月前からすでに数人の方にはお知らせしておりましたが、Master Mundusがとうとう本格的に動き出すこととなりました。

Erasmusというヨーロッパの大学間短期留学・単位互換制度はご存知の方も多いと思います。Erasmusは学部レベルですが、それを今度は大学院レベルで長期、それも独仏の哲学・思想研究の少数精鋭に絞ったもの、それがMaster Mundus EuroPhiloです。

詳細は当該サイトを参照していただきたいのですが(専用サイト設置:2006年11月22日追記)、年間2万1千ユーロ(150円換算だと315万円)相当の奨学金を得ながら、二年間で仏・独などの三つの大学で優秀な研究者のもとで研究し、フランス哲学とドイツ哲学両方のスペシャリストを目指す、というものです。この制度に非ヨーロッパ圏からも参加者を募ることがこの度正式に決まった旨、フランス側の代表者であり私の友人でもある
Jean-Christophe Goddard氏から連絡がありました。

一年に全世界(非ヨーロッパ圏)から13人だけ選ばれるという超難関コースですが、教育内容的にも財政的にも恵まれた環境で研究するという経験は、日本の優秀な哲学・思想系の若手研究者にとって何物にも代えがたい財産となることでしょう。

この壮大な実験を見るにつけ、現在の日本の西洋哲学・思想研究には大きく二つの構造的問題があるという事実が浮かび上がってきます。今この話に関係のある限りで簡潔に言えば、一つ目は、哲学研究における語学教育(とりわけ書く・話す)の軽視や早期からのインテンシヴな教育の不在など、「高等教育」という視点が決定的に不足していること、二つ目は、ドイツ哲学とフランス哲学の間に積極的な共闘の姿勢があまり見られず、とりわけ「両刀使い」を育てようとする姿勢がほとんど見られないことです。
Cf. 以前書いたgribouillage「哲学の教育、教育の哲学」を参照されたい。
(1)数の問題 (2005年2月21日)
(2)エリート教育の問題 (2005年5月9日)


私たちの国の問題を他国の新制度によって解決できるなどと幻想を抱いているわけではありませんし、日本人にとって西洋諸語の言葉の壁が大きいことも重々承知しています。ただ、手遅れになる前にその欠を少しでも埋めていくのは現在の大学人、哲学・思想研究者の責務であるとも思っています。人文科学が強いられている無限の後退戦をただ嘆くばかりでは何も始まりません。若手の優秀な研究者の出現を偶然の産物とするのでなく制度的に促進していくこと、今回のMaster Mundusはそのごくわずかばかりの補完になりうるのではないかと期待しています。

自薦他薦を問いませんが、皆様の周りの優秀な大学院生(来年度から即留学できるので修士終了間際がベスト、博士前半まで)をこの制度にご推薦いただけませんでしょうか?現実問題としましては、フランス語ないしドイツ語のどちらか一つがとてもよく出来(読み書き話す)、もう一つは読める(少し話せる)くらいでよいと思います。仏独の思想を研究対象としていれば、どの学科に所属していても問題はありません。

フランスの大学に応募される場合、いろいろとご相談に乗ることも出来るかと思いますので、どうぞ私のほうまでお気軽にご相談くださいませ。

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