Monday, January 14, 2013

【クリップ】「学園祭の禁酒」に賛否両論

相次ぐ大学生の飲酒事故…「学園祭の禁酒」に賛否両論

2012/11/16 20:33更新

 【金曜討論】
  学園祭シーズン真っ盛りの今秋、東大や一橋大、法政大など各地の大学で酒類の販売や持ち込みを禁止する動きが広がっている。相次いだ大学生の飲酒事故を受 けた予防措置だが、疑問の声もある。「学園祭の禁酒は当然」と話すNPO法人「アルコール薬物問題全国市民協会(ASK)」の今成知美代表と、「教育機会 として活用できる」として禁止に反対する関東学院大の新井克弥教授に、意見を聞いた。(磨井慎吾)
 ■新井克弥氏「キャリア教育の一環に」
 --学園祭での飲酒禁止に踏み切る大学が相次いでいる
  「大学が厳格にアルコール類を締め出すようになったのは、ここ10年くらい。もともと大学はモラトリアム(社会に出るまでの猶予)期間。(現在の大学教養 課程に相当する)旧制高校生らを見ても分かるが、明治以来、学生は酒を飲んではバカをやらかし、周囲も大目に見る伝統があった」
 ●飲み方を知らない
 --なぜそれが消えているのか
  「一つには、学生文化からの飲酒習慣の衰退。一昔前までは学生同士がコミュニケーションを深める手段は飲み会くらいしかなく、それで酒の飲み方を覚えてい く面があった。今は携帯電話などが登場し、そちらにお金も時間も費やさなければならなくなった。相対的に酒を飲むスキルは低下し、飲酒事故にもつながって いく」
 --ほかにも理由が?
 「もう一つは、リスクを嫌う大学側の姿勢だ。近年の大学には、昔では考えられないようなクレームが寄せられる。キャンパス内で飲酒事故が起きたときに大学が管理者責任を追及されることを恐れての、苦肉の防衛策ともいえる」
 --その何が問題か
  「私が勤務していた大学でも学祭の後夜祭を禁酒にしようという話があったが、反対した。禁酒にするのは簡単だが、学生は友人宅など別の場所で飲酒するだけ だ。そこで飲酒事故が起これば同じことで、大学側の都合による“臭いものに蓋”の責任回避にすぎない。それよりも、アクティブ・ラーニング(能動的学習) の機会として、コミュニケーションに関するキャリア(社会人に必要な技能)教育ととらえてみる方がいいと考え、年齢確認など綿密な対策を取った上で、飲酒 を許可した」
 --大学で教える必要はあるか
 「大学進学率が5割を超え、大学に来る準備ができていない学生が多くなった。 自己認識も『学生』ではなく『生徒』で、情けない話だが勉強以前に生活面などの“生徒指導”も必要な状況だ。今の大学では、そこまで面倒を見てやらねばな らない。どのみち就職などで社会に出れば、酒を介したコミュニケーションに出合う。その前にキャリア教育の一環として、酒の飲み方について知る機会を持たせるのは意義あることだ」
 ●一律排除には疑問
 --酒は嗜好(しこう)品で、大学以外の場所で飲めば十分という声もある
  「法制度上で、また文化や慣習の上でも認められている嗜好品だからこそ、一律に締め出すのはおかしい。私はたばこは嫌いだが、(喫煙所設置などで)たばこ を吸う権利は確保されなければならないと考える。同様に、飲む人と飲まない人、両方がその自由を享受できる環境を保つことが必要だ」
 ■今成知美氏 「模擬店酒場」など論外
 --大学の学園祭での禁酒傾向を評価するか
  「学園祭で酒を出さない決定は当然だ。世界中探しても、学園祭の模擬店で酒を売れる国はどこにもないのではないか。日本は不思議な国で、酒の販売には免許 が必要なのに、飲食店での提供については免許がいらない。だが、海外の多くの国では販売だけでなく提供にも免許が必要としている。アルコールを扱うために は一定の資格・知識が要求されるからだ。世界的に見て、日本の状況は異常。何の免許もない学生が、模擬店で酒を出すというのはありえない」
 ○海外ではまずない
 --一律の排除には、嗜好(しこう)品の自由の観点から不満の声もある
  「大学キャンパス内で飲酒すること自体が、海外の大学ではまずない。社会全体が公共の場での飲酒に厳しいからだ。米国では、駅や公園や道路などは禁酒で、 従って日本流のお花見などもありえない。欧米の学生も酒を飲まないわけではないが、飲む場合はパブなどに行く。大学という場所で酒を飲む発想そのものがな い」
 --日本は飲酒に寛容なのか
 「欧米では、酔っ払って道を歩いているだけでアルコール依存症だと見なされてしまうほ ど、飲酒への社会の目が厳しい。酔態を見せること自体がよくないとされており、例えば、日本の金曜日の終電内で見られるような光景は、ありえない。皆で 酔っ払うことをよしとする日本とは、大きな文化の違いがある」
 --飲酒に対する感覚は国によって異なる
 「確かに日本をはじめ、韓国中国など東アジア圏には、飲酒に甘い傾向があるかもしれない。だが、韓国を 代表する国際的企業のサムスンが最近、社内の飲酒文化を改善するための節酒キャンペーンを始めるなど、東アジアでもアルコールを制限する動きが出てきてい る。世界保健機関(WHO)がアルコールの有害使用の低減世界戦略を2010年に打ち出していることもあり、飲酒事故予防への取り組みは今や国際的潮流に なっている」
 ○危険薬物の認識を
 --酒は嗜好品であり、飲む飲まないは個人の選択に委ねられる
 「嗜好品 と言うが、アルコールは危険な薬物。酔いとは脳の中枢神経のまひであり、泥酔状態から死までは一歩の差にすぎない。アルコールの摂取は命に関わってくると の認識を持たせることが重要だ。酒を飲む習慣を覚えるのは、大学時代が多い。大学は、これを機会にアルコールについての教育を行ってほしい。ただキャンパ ス内で酒を飲ませないというだけでは学生が反発し、かえって逆効果の懸念もある。飲む場所が他に移るだけでは意味がない」
 【プロフィル】 新井克弥氏(あらい・かつや) 昭和35年、静岡県生まれ。52歳。法政大卒業後、東洋大大学院社会学研究科修了。専門はメディア社会論。フリーライ ター、予備校教師などを経て、平成10年に宮崎公立大講師。同大准教授を経て、20年から関東学院大教授。著書に「カオサン探検」「劇場型社会の構造」など。
 【プロフィル】今成知美(いまなり・ともみ) 昭和31年、東京都生まれ。56歳。東京芸大卒業後、メキシコのグアナファト大付属インスティテュート・アジェンデ大学院修了。フリージャーナリストをしながら、59年にアルコール薬物問題全国市民協会の代表に就任。アルコール依存症などの啓発に取り組む。

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