「母がしんどい」「母が重い」娘が急増中
「母のこと、大嫌いでもいいですか?」――帯にこう銘打たれたコミックエッセイが、いま話題を集めている。
『母がしんどい』 (田房永子/新人物往来社)は、どんなことでも娘を支配したがり、しかも思い通りにならないと喚き散らすという母を持った著者が、母の束縛から自立するま でを描いた作品だ。Amazonの出版社コメントによれば、「自分とまったく同じ」「私だけじゃなかったんだ」という共感の声が届いている、という。
実は、母娘の関係を描いた作品は、近年とみに増えている。たとえば、村山由佳の『放蕩記』(集英社)は、長年にわたる母と娘の確執を描いた作品だし、直木賞を受賞した辻村深月の『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』(講談社)では、過干渉な母と娘の関係性が重要なテーマとして登場。また、佐野洋子のエッセイ『シズコさん』(新潮社)では、“母親を好きになったことがない”というストレートな心情が綴られている。ノンフィクションの世界でも、カウンセラーである信田さよ子の『母が重くてたまらない―墓守娘の嘆き』(春秋社)や、精神科医の斎藤環が『母は娘の人生を支配する―なぜ「母殺し」は難しいのか』(日本放送出版協会)を発表するなど、社会問題としてクローズアップされているのだ。
いま、なぜ母娘ものが増えているのか。その理由のひとつには男女雇用機会均等法以降、母親が娘に対し、社会的な期待を抱くようになったことが挙げ られるだろう。もっといい学校に、もっといい企業に―昔ならば息子にだけ注がれていた期待という名のプレッシャーが、いまは娘にも同様に襲いかかっている のだ。しかし、それだけではない。女性には社会的な安定を望む一方、結婚や出産という“女としての期待”もプラスされてしまう。社会学者の上野千鶴子は、 これを『文學界』9月号の連載で“娘の「二重負担」”と呼んでいる。
さらに、前出の『母が重くてたまらない』 では、「息子に対しては、かけがえのなさを強調して庇護欲求を刺激するが、娘に対しては、罪悪感を適度に刺激することで「母を支え続けなければならない」 という義務感を植えつける」という指摘がなされている。母を負担に感じる娘の場合、摂食障害やうつといった精神的症状が表れる事例が多いといわれるのは、 こうした重圧も原因に考えられるかもしれない。
母性という幻想の名のもとに繰り広げられる、母による無自覚な娘への過度な押しつけ。信田は、「母からの無神経な侵入や支配に対して必要なことは、とにかく逃げるか拒絶することだ」と書いている。『母がしんどい』でも、著者は苦しみながらも母(そして母子関係の裏ボスでもある父)と距離を置き、“自分で自分の味方をする”ことで、安定を手にしようと懸命に努力する姿が描かれている。
大事なのは、「母がしんどい、重たい」「実はすごく嫌い」と思う感情に、「私って不義理なのかな」というような罪悪感を抱かないことだ。蓋をして我慢しようとせずに、まずは同じ悩みを抱えているケースを知り、冷静になって関係を見つめてみてほしいと思う。
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