Tuesday, October 30, 2007

教養と政治

≪「教養」と「政治」との組み合わせ。――このように問題を取り上げると、そこにエリート主義の匂いをかぎつけ、「教養」なき衆生を支配しようとする権力意志を読み取る人もいるかもしれない。とりわけ、この日本、少なくとも現在の日本社会では、そうした反応をする人が大半を占めるだろう。

だが、ここであえて、「教養」と「政治」とを組み合わせて論じるのは、これまでこの国では、三木清のような少数の例外を除いて、そうした課題を追求した試みが、ほとんど見られないからである。例えば、かつて1969年(昭和44年)に、蠟山政道は、『政治学』を収録した『アリストテレス全集』の一巻に寄せた短文でこう述べていた。

「その[『政治学』の]第7巻と第8巻が教育に関する見解に当てられている。そして、政治的な理想と教育の原則との関係が述べられている。/近代になってから政治学と教育学とはまったく袂を分かってしまい、政治学の立場で教育問題を取り扱っているのはきわめて少なく、特に日本ではその傾向が強い。

戦後日本で、教育の政治的中立ということが主張された。その際、政治の意味が政党政派の政治というような狭くかつ低いものにされてしまい、それに戦前の極端な国家主義への反動も加わって教育基本法における「良識ある公民たるに必要な政治的教養は、教育上これを尊重しなければならない」(第8条)とあるにもかかわらず、教育界には政治と教育との根本的な関係について関心を払うことが避けられてきた。

そこに、戦後日本の民主教育の欠陥の一つがあり、それがいま大学紛争その他となって現れている、といっても過言でない」≫(苅部直(かるべ・ただし)、『移りゆく「教養」』、NTT出版、2007年、103-105頁)


Q. あなたはよく「素人」と「専門家」の区別を強調するが?

A. そのとおりです。ただし、哲学に関する知識のレベルにおいてではありません。例えば哲学的概念は、それがどんなに難解なものであっても、一つ一つ取り上げてみれば、本やインターネットによって習得可能なものであり、決して思われているほど理解不可能なものではありません。

たいていの学問においてと同様、哲学において素人と専門家が区別されるのは、知識が活用されるその仕方においてです。具体的に言えば、直面している問題を正確に把握し、関連すると思われる知識を記憶の中から必要なだけ呼び出し、的確な形に組み合わせ、問題を論じる、その仕方においてです。

さらに、この「判断力」を駆使して論文を執筆し、研究を遂行する人が「研究者」と呼ばれるわけです。

ここで強調しておきたいのは、私はこのブログでほとんど常に「研究」の視点から語っているということ、若い人について語る場合でも、「大学院生」や「ポスドク」と言わず、「若手研究者」という言葉を用いているということです。

このように区別を強調せねばならないのは、日本の大学制度が、若手研究者がなるべく早く経済的自立を達成し、自尊心をもった形で独立できるような制度を未だ完全に確立していないからです。

日本学生支援機構(旧・育英会)がある?貸与するにも親を保証人に取る制度に頼って自立できるでしょうか。日本学術振興会がある?それによって何パーセントの若手研究者が身分を安定的に保証されるというのでしょうか。

人文系の学問を研究することがモラトリアムの延長線上で語られかねない現状は、学生および家庭・教員および大学・社会や政府の利害が複雑に混ざり合うことで成り立っていますが、一つだけたしかに言えることは、このような状況は研究にとって危機的なものであるということ、「大学院大学」という戦略では、大衆化に対抗して研究の質を維持できないだろう、ということです。

資本の論理、エクセレンスの論理に抗するには、どうすればいいのでしょうか?レディングスの提唱する不同意の共同体は、実現可能なものなのでしょうか?


TVでよく見る「特任・特命・特別教授」って何なの?
5月31日10時0分配信 日刊ゲンダイ

 TVのワイドショー等で、コメンテーターとして引っ張りダコの有名人センセイ。例えば、作家の猪瀬直樹(60=信州大)は国立の東工大の特任教授。元 TBSアナウンサーの木場弘子(42=千葉大)は、千葉大の特命教授。俳優の原田大二郎(63=明大)は明大の特別招聘教授、アグネス・チャン(51=カナダ・トロント大学)は目白大学の客員教授。「教授」は分かるとしても、「特命」や「特別招聘」って何なの?

「法律上、大学には学長、教授、准教授(旧・助教授)、助教、助手および事務職員を置くように決められています。ほかに副学長や学部長、講師、技術職員など置くことができます」(文部科学省広報担当)

 ナントカ教授というのは、各大学がそれぞれ設けている特別な肩書。実務レベルで、大学側から依頼する場合が多い。「本校の場合、特任、特命、客員を設けています。教授になるには年齢規定(60歳未満)がありますが、特任教授は不適用。授業は担当するので、一番教授に近い立場です。特命教授は授業なし。客員は1年ごとの更新で、常勤と非常勤があります」(早大広報)

「ここ最近、特別な教授が増えています。宣伝になり、各大学の特色を出しやすいためではないでしょうか」(明大広報) ま、一流大学はナントカ教授なんかで受験学生を集めず、プライドを持ってほしいものだが……。

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