Tuesday, February 19, 2008

ゆとりを独占する者

2月16日(土)、第7回フランス哲学セミナーに参加。メルロとリクールについての発表を聴く。

最近の仕事。
・「bの転義論」再校。「暴力」概念再考。
・「b&lの物質性」仏語版。「有限性」概念再考。
・「哲学と大学」シンポ迫る。準備。

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私はゆとり教育そのものに対してはさほど批判的ではない。受験戦争用の詰め込み教育をすべての子供に押し付ける必要はない、という意味においてである。だがまた、「ゆとりの理念はよかったが、実施段階(文科省官僚?日教組?現場の教員?)で間違えた」という言説に加担しようとも思わない。ゆとりの「理念」をあの時点であのような形で言い出したこと自体、やはり楽観的な姿勢だったのではないかと思うからである。

「『ゆとり』には、地域社会と大人が土日は時間のゆとりを持って子供たちと過ごし、子供を鍛えてほしいという意味も込めていた」(有馬朗人)。

そういうことは、日本の過剰労働社会の現状を改革することと同時でなければ意味がないどころか、有害にもなりかねないということを有馬氏は自覚すべきだったと思う。ゆとりをもった子どもを、ゆとりのない大人たちの誰が――親、教師、地域共同体?――、面倒を見るのか?親も、教師も、地域共同体も青息吐息の中で、過去最高の利益をゆとりをもって上げ続けているのは誰なのか。

銀行6グループ 最終益3兆円超、過去最高 のど元過ぎて…顧客軽視(産経新聞、2006年5月24日)
租税特別措置の企業減税、半数20年超 既得権化指摘も(朝日新聞、2008年2月17日)
母子家庭 重労働団らん犠牲(東京新聞、2007年12月20日)

教育問題はそれだけを眺めていても決して解決しない。教育の問題は社会の問題であり、政治の問題である。もちろん、この問題に政治的な視点だけをもって取り組むとえてして「利益誘導型」に終わりやすい。哲学的で批判的な分析が必要だ。《哲学・教育・政治》の不可分を言うゆえんである。


「ゆとり教育」の先に…自信も失った若者たち
2月17日16時4分配信 産経新聞


 「未来像…学力低下はさらに進む!!」。昨年12月下旬、福島県相馬市から県立相馬高校の2年生14人が、元文部大臣の有馬朗人氏(77)を東京に訪ねてやってきた。

 生徒たちは研究発表の資料を携えていた。「学力低下の要因の1つは『ゆとり教育』」「授業で習うことが社会で役に立たないから、学習意欲・関心が低下している」「教員の質も問題だ」…。資料には有馬氏を詰問するかのような学力低下の“分析結果”が並んでいた。

 物理学者で東大総長も務めた有馬氏は、平成8年に「ゆとり」「生きる力」を打ち出した中央教育審議会の当時の会長だ。

 生徒たちは、理数教育を推進する「スーパーサイエンスハイスクール」活動の一環として教育の科学的考察に取り組んだ。きっかけは、昨年12月上旬に発表された「生徒の国際学習到達度調査(PISA)」の結果で、「日本の順位がまた落ちた」という報道だ。

 「学力は下がっていない」。きっぱりと反論する有馬氏に、生徒は目を丸くした。熱弁は2時間近くに及んだ。

 有馬氏は内心ではこう嘆いたという。「分たちが悪い教育を受けてきたと思っている。過度の『学力低下』批判が、子供たちの自信を失わせた。学力の問題より、こちらの方が大変なことではないのか」       



 「お前、ゆとりだろ」。ネットの掲示板などで相手をおとしめるため使われる言葉だ。昨年12月、巨大掲示板「2ちゃんねる」のユーザーが中心となって投票した「ネット流行語大賞」では、銅賞に選ばれている。

 中教審委員として前回と今回双方の指導要領改定に携わり、私立有名進学校を経営する「渋谷教育学園」の田村哲夫理事長(71)は、ゆとり教育の目指したものについて「教育の目的は不測の事態への適応力をつけるための訓練。高めるには知識などの学力が3割、意欲や思考力などが7割-が心理学の定説だ。前回の改定は、学力訓練に注力しすぎた教育をただすためだった」と位置づける。

 だが、「時間を減らしたら、教える側が何もしなくなってしまったのが実情。できた余裕が現場でまったく生かされず、マイナスだけが出てきた」と、今回、30年ぶりに授業時間増に転じる理由を説明する。

 「『ゆとり』には、地域社会と大人が土日は時間のゆとりを持って子供たちと過ごし、子供を鍛えてほしいという意味も込めていた」と有馬氏は言う。

 「答申後、文部省(当時)の役人とともに全国を回ればよかった。ゆとりの意味はこうだ、とていねいに説明すべきだった。後悔している」               

 ◇

 今年1月16日、東工大のシンポジウムで有馬氏は、ここでも「学力が下がっていると言われるが、全く下がっていないことを証明する」と言い切り、「理工系学生の学力・学習意欲の低下が問題化している」と“弱気”なあいさつをした主催学生を勇気付けた。

 有馬氏は、昨年10月に文部科学省が発表した全国学力調査の結果などを引用し、小学校6年生の漢字で「(魚を)焼く」と正しく書けたのは70・9%で昭和39年調査の33・8%を大幅に上回ることなどから、「義務教育段階での知識型学力は落ちていない」とする。

 一方で中学で学ぶ2次方程式を解ける大学生が3割しかいない例をあげ、「大学はガタ落ちだ」とも認める。

 学力が身についていない。応用型の国際学力調査などで成績が伸びていない現状は否定できない。 冒頭の生徒たちは有馬氏の説明を受け、氏家由希子さん(17)は「ゆとりが目指したものを知らなかった」とし、「有馬先生の考えが、親や地域の人にどれだけ浸透していたのか。納得いかないところもあった」とも。

 「学習指導要領が改定されるなら、本当の狙いがちゃんと分かるようにしてほしい。でなければ誤解が二重になっていく気がする」。佐藤恵里香さん(17)はそう話した。

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