Wednesday, April 04, 2012

ある論文の運命

ちょっと記録しておきたいのが、今度2012年6月に出るアメリカの雑誌の哲学論文が出るまでの過程。英語圏の校正作業はすごいとこのブログでたびたび漏らしてきたが、実態はこんな感じだった。

2010年12月25日、ゲストエディターのTTからinvitationを受ける。28日、承諾すると返事。

元になる論文がすでにあったので、これを英訳し、かつバージョンアップする。

2011年8月27日、初めて英人同僚pcに添削依頼(第一弾)。第1回:8月30日(火)の昼に天神で3,4時間。第2回:9月6日(火)の昼に天神で数時間。第3回:9月15日(木)1時間半。第4回:9月22日(木)1時間半。第5回:9月26日(月)1時間半。第6回:9月29日(木)1時間半。第7回:9月30日(金)1時間半。

(なぜこんなに時間がかかったかというと、pcが非常に忍耐強い(失われた日本人の美質を英国人が持っていようとは!)職人気質である上に、私が厚顔無恥に、なんとか自分の言いたいことを理解してもらおうと、一行一行解説し、確認し、議論しながら進んだからである。)

2011年10月2日に初稿をScholarOneというネット上のシステム――機械音痴にはなんだかとても複雑な代物に見えた――に提出。3日、「これからReviewに回される」と技術的な事柄を司るエディターLSから連絡あり。英語は途中までしかネイティヴ・チェックを受けていないので、後で直したいと要望を伝えておく。4日、signed Copyright Transfer Agreement をPDFかファックスで送れとLS。

提出後、さっそく残りの添削依頼(第二弾)。第8回:10月7日(金)1時間半。第9回:10月13日(木)数時間。

2011年12月19日、TTからreviewをパスしたと連絡あり(つまり査読有り)。「reviewerたちは特段修正指示を出さなかったし、内容面で変更が必要なところもないけれど、英語はもし直したいなら、たしかに少し直してもいいかもね。たぶん最終版が提出された後でこの点についてはエディターたちが助けてくれると思うけど、その前に可能な限りいい形にしたうえで、助けてもらうのがベストだろうね。どうしたいか知らせてくれ。最終版は1月15日までにほしいな」とTT。

さらにバージョンアップしたうえで、またも添削依頼(第三弾)。第10回:12月23日(金)1時間半。第11回:1月6日(金)3,4時間。第12回:1月9日(月)3,4時間。

2012年1月9日、註のつけ方や略号の使い方について尋ねるために、TTに暫定改訂版を個人的に送る。どうやら、それがTTから技術的な事柄を司るエディターLSに送られてしまったらしく、「12日、revised versionをScholarOneというネット上のシステムに登録した。平均的なreviewにかかる時間は2カ月程度、その頃にまた連絡する」と13日にメール。「いやいや、あれは質問するために出した暫定版で、TTが提示した通り、これから新版を送る」と返事し、その日のうちに二稿を送った。

2012年2月26日、TTよりメール。「LSが英語についてもし何か直したいなら、最後にもう一度proof-readしておいてと頼んできた。変更のあったところが分かるように、track changesを使った版を添付しておく。悪いんだけど、僕が君の言いたいことを変えてしまったり誤解していないか確認するためにざっと見てくれないか。もうそろそろこの特集号を出版社に送る最終締め切りが近づいてきているので、手早く、数日でやってくれないか。急がせてごめん!」そして最後にうれしい一言(もちろん外交辞令に決まっているが、苦労したのでそれでもうれしい)。 Many thanks again for this excellent paper -- it has provoked a lot of thinking for me. それにしてもTTが手を入れた版(ver2・5)は、細かい修正が至るところに入っている。

同日(2月26日)、さっそくこのver2・5をpcに添削依頼(第四弾)。第13回:2月29日(水)、けっこう長時間見てもらったはず。特にpunctuationに関して、かなりのアメリカナイズ(きわめて機械的かつ執拗な句読点)が見られるとpc。

2012年2月29日、チェックした三稿(final versionと彼らは呼んでいた)をTTに送付。彼の修正で意図が不明だった部分(ほぼすべて些細な編集上の問題)に疑問を書きこんでおいた。3月4日、不安になったので、その旨、もう一度伝えておく。5日、もし何か修正があれば、LSから連絡があるよ、とTT。

2012年3月22日、LSよりメール。「今日、出版社に論文を全部送ろうとして気づいたんだけど、あなたのsigned Copyright Transfer Agreementを持ってないことに気づいたのよ。十月に送るよって言ってくれてたけど、どこかでなくなったんじゃないといいけど。すぐに送ってくれる。この段階では、もうほんとにぎりぎり」。23日、スキャンして送る。

同日(22日)、Wiley-Blackwell Author Services TeamからWiley-Blackwell Author Servicesに登録せよとのメール。これは先述したScholarOneとはまた違うシステムなのだという。やれやれ。


2012年3月30日(金)、出版社(Wiley-Blackwell)から直接、最終版(ver3.5)のproofが出来上がったので、直接手を入れてスキャンして送るか、ネット上のシステムを使って修正してくれとメール。驚いたことに、めちゃくちゃ手が入っている…。なんというか、文体的なレベルまで「均質的」「等質的」、ほとんど「平板」と言いたいほどなめらかになるように変更されている。きわめて啓蒙的な註が付け加えられたり(CNRSって何の略号か知ってる?みたいな)、人名初出にファーストネームが自動的に付加されたり(でもミシュレがKarl Ludwigになっていたのには笑ってしまったけど…)。
 
さっそく同僚pcに添削依頼(第五弾)。第14回、3,4時間。文法的にもかなりアメリカナイズされているとpc。まあ、アメリカの大学人に読まれるための哲学雑誌なのだから、と私。もともとアトピー重症化で基礎体力がなくなっているうえに、体力的にズタボロになりながらも実に長時間、添削してもらい、送る。ようやくこれで終わり…と思いたい。

こうして今に至る。一つの論文にこれだけ手間をかけたのは、後にも先にもこれだけだ。



ちなみに、仏語の論文集がフランスの割に固い出版社(Cerf)から今年の年末か来年頭に出る。昨年、原稿を出したが、何も言ってこない。訊いてみたら、編者もまだ校正を受け取っておらず、総ページ数も知らないという。この彼我の体制の違い…(笑)。

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