Friday, March 29, 2013

【クリップ】就活解禁、4年生の4月に

喜ばしい一歩前進である。だが、よく指摘されているとおり、問題は、「新卒採用」という日本企業の神話であり、大学の近年の「就職」重視戦略である。何度でも言う。企業は速やかに新卒採用偏重をやめ、キャリアに応じた柔軟な採用戦略に舵を切ったほうがよいし、大学はキャリア支援を自らの体制の中に適切に位置づけるとともに、社会や企業に対して、自らの存在意義を明確に発信していくべきである。

現今の、特に私立大学には、「キャリアサポート」「キャリアデザイン」「キャリア戦略」なるものを過剰に重視することで、少子化で先の見えない学生数確保につなげたいという思惑が見える。大学進学を考える高校生、その親たちが、大学を選ぶ際の指針として、「就職率」なる数値に注目する傾向が高まって久しいため、大学側も、そのような「ユーザー」の目線を意識し、「早期からのキャリア教育」をメニューとして用意するようになってきているのである。

だが、高校生やその親が「就職率」を基準に大学を選ぶこと、現今の大学が「新卒で就職させる」ことを自らの至上命題とすることは、本当に理に適っているのだろうか?

1.就職率より離職率のもつ意味を考えるべき

まず、きちんとした現状認識をもつことから始めよう。七五三現象」という若年者の早期離職現象がある。厚生労働省の「新規学卒就職者の在職期間別離職率の推移」によれば、中卒の7割、高卒の5割、大卒の3割が、3年以内に辞めている。

こういうとすぐに「最近の若者は…」といった声が聞こえてきそうだが、実はほぼ二十年近くこの数字は変わっていない。その前の十年ほどを遡っても、数パーセント低い程度で、劇的な変化はない。離職率の変化は、「学生の多様化も要因の1つではありますが、就活年度の求人倍率に大きく左右されていることが分かります。求人倍率が高いと早期離職率は低く抑えられ、求人倍率が低いと早期離職は高くなる、というわけです」という指摘があることも言い添えておこう。

《離職理由では、企業と学生の「ミスマッチ」を指摘する声が多くあります。求人倍率が高ければ、学生は多くの選択肢の中から企業を選ぶことができます。そのため、結果的に「ミスマッチ」が解消され、離職率が低くなるのでしょう。
この「ミスマッチ」解消のために、大学でもさまざまな取り組みが行われています。しかし、どんなにマッチング精度を高めても、3割程度の早期離職はなくならないのではないか。そう考えています。
新卒採用は、仕事経験のない求職者(学生)を仕事能力で評価するという矛盾した採用です。彼らが語る言葉や態度からさまざまなサイン読み取り、仕事能力の有無をイメージし、判断しなくてはなりません。それは、学生側にも言えることです。どれだけ入念に企業を調べたとしても、入社後のリアリティショックを完璧に回避することは難しいでしょう。
入社後、互いの価値観や能力を確認し合う一定期間に、一定数の離職者が発生する。それは、新卒採用の構造的宿命のように思います。》(ちなみに、このコラムの執筆者平野恵子さんのエッセイにはうなずかされるものが多かった。一読をお勧めしておく。)
ここから出てくる素朴な疑問は、「3割が3年以内に辞めてしまうものに、大切な大学4年間を費やしていいのか」である。「4年間」と書いたのは、大学によっては、入学してすぐに「キャリア教育」がスタートするからだ。

したがって、キャリア教育は重要であるし、行なうべきだと思うが、その位置づけを見誤ってはならない。大学の基本はあくまでも学術的な教養教育および専門教育である。

2.マークシート式テストで「社会人基礎力」は測れるのか?

もちろん、大学在学時のあらゆる就職活動が無意味だというのではまったくない。就職を意識して、身だしなみや振る舞い、言動、礼儀や社交を変えていくことは大切だし、就職しようとする会社について調べ、自分のアピールポイントを探し、それらすべてを一つの「戦略」にまで高めていくことはとても意味のあることだと思う。

だが、大学がキャリア支援と称して行なっているものの中には、就職関連会社が開発した記号式のテストを受けさせること、その対策として模擬試験を受けさせることが少なからぬ比重を占めている。試験の内容はと言えばたいていは、試験さえ終わってしまえば、日常生活で決して使うことのない小手先の暗記物である。

大学で行なっている教育は役にたたないと批判する人々が、キャリア支援のためのSPI試験対策を称揚するのは矛盾している。そういう人々には、SPI試験がいかなる意味で、学生たちがこれから数十年を生き抜いていくために、大学の通常の教育以上に役に立つのか説明してもらいたい。

基本的な知識の欠落を補うというその限りで、SPI試験にも一定程度の意味はあると思うが、それ以上のものではない。つまり全国の大学がこぞって血道を上げるようなものではない。一部の「人気企業」が面接業務を簡略化するため以外に、本当に日本の若者の教育と雇用に役立っているのだろうか。

もちろんこの問いは、センター試験にも向けられる。マークシートで大学で必要な「活きた知性」は測れるのか?そうでないなら、答え自体は見えなくとも、答えを出すべき方向性はもう見えている。

3.大学の存在意義

ここで最後にもう一度強調しておくが、以上のエッセイは、大学におけるキャリア支援に反対しているのではない。むしろ逆で、大学の中にキャリア支援を適切に位置づけるべきであり、そのためには現在進行中の事態に対するもう少し冷静な原理的考察が必要だと言っているのである。

いずれにしても、就職活動を大学の存在意義の根幹に据えるのは重大な方向性の誤認である。就職説明会があるからという理由で学生が授業を休むことを承認したり、SPI試験をゼミ活動に強制的に取り込ませようとするのは、大学にとって大切なものを見失っていると言わざるを得ない。

早晩辞めるかもしれない会社にとにかく就職する(させる)ために、大学を選ぶ(選ばせる)のは間違っている。大学は、4年間かけて、就職活動をしたり、就職活動のための小手先の暗記を必死にやる場所であるべきではない。

大学は、就職した会社が倒産しようが、そこから早期離職しようが、その後数十年の残りの人生を心豊かに生き抜いていけるように準備をするための場所であるべきではないだろうか。

大学は単なる「会社に入るための入り口」ではない。そうでもありうるが、それが目的ではない。「豊かな教養と市民としての自覚をもった人間」を育てること、それが目的である。

日本の社会においてその意義を大きく見損なわれているのは、「心豊かに生きる」というときのその「豊かさ」の質である。大学はそこにおいてこそ真の貢献をするのだ。



就活 4年生4月解禁 政府、経団連に憲章改定要請へ

産経新聞 3月28日(木)7時55分配信
就活 4年生4月解禁 政府、経団連に憲章改定要請へ
大学(学部)卒業者の就職先産業別構成の状況(写真:産経新聞)
 政府は27日、大学生の就職活動の解禁時期を現在の3年生の12月から、4年生の4月に変更するよう経済界に要請する方針を固めた。具体的には、経団連に対し会員企業に早期採用の自粛を呼びかけている「倫理憲章」の改定を求める。就職活動に奪われていた時間をキャリア育成や専門教育に振り向け、即戦力となる社会人を育てる狙いがある。6月にまとめる成長戦略にも反映させる。

【大学ウオッチャー大予想】“氷河期”でもお買い得な30大学

 現在、大学の新卒生を対象にした企業説明会や会社訪問の解禁は3年生の12月となっている。これを4年生の4月に遅らせ、面接や筆記試験の選考については4年生の8月以降とする。平成27年度入社の採用からの実施を目指す。大学3年生が就職活動に追われることで、大学生の学力低下が起きていると指摘されている。春に海外留学から帰国した学生が国内企業の採用試験に間に合わないなどの問題も出ていた。文部科学省幹部は「現状では学生生活の1年半近くを就職活動に使うことになる」としている。

 政府の産業競争力会議(議長・安倍晋三首相)や「若者・女性活躍推進フォーラム」(座長・甘利明経済再生担当相)でも大学3年生からの就職活動が問題視され、対応が検討されていた。政府は、教育再生実行会議で就職活動の後ろ倒しを生かした人材育成強化策も議論する予定だ。キャリア教育、留学支援を予算措置も含めて検討し、留学生数(約5万8千人)の12万人への倍増を目指す。公務員採用試験の時期も見直す方針だ。ただ、外資系企業は経団連の「倫理憲章」に縛られないほか、大手企業の後に採用が本格化する中小企業にとっては人材確保の期間が狭まるという課題が生じる。

【用語解説】経団連の「採用選考に関する企業の倫理憲章」

 経団連が会員企業に早期採用の自粛などを呼びかけた自主的取り決め。就職活動の過熱化を是正するため、平成23年に解禁時期を2カ月遅らせ3年生の12月に改定した。正式内定日は改定前から4年生の10月以降。

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