Thursday, May 12, 2005

続・スシボンバーの憂鬱

不満な点が幾つもある。言いっ放しだと思われたくないので、手短に問題点を素描しておこう。

1. 「ゆとり教育」に関して

子供が勉強に対する意欲をなくしているという。しかし、親がそもそも偏差値や学校のネームバリューや子供の「将来」(良い会 社に入ること?)にしか興味をもっていないのに、どうして子供が勉強の面白さに気づけようか。要するに、まずは親自身が再教育される必要があるのである。これは別項で 指摘したが(pratiques théoriquesの2005年2月21日の項参照)、教育問題を論じるときに見落とされがちな視点は、親があたかも完成された人間であるかのように 見なされているという点である。

2.海外で活躍する日本人選手と日本人研究者

木本大志さんの「イチローvs.松井秀を前に思う日本人メジャーリーガーの成熟」(2005年05月09日)という記事を読んでいて、改めてこの十年の日本人メジャーリーガーの成熟を思う。

海外のプロスポーツに挑戦するというのは、一つ一つ偏見を打破し、自分の能力を証明していくということである。

去年だったか、オランダ・リーグの韓国人サッカー選手が批判されていた。活躍していないから、というのではない。オランダ人並みにしか活躍していないから、というのである。オランダ人並みにしか活躍しないなら、わざわざ外国人を雇う必要はない、というわけだ。つまり外国人選手に求められているのは、並みの活躍ではない。ずば抜けた活躍なのである。その意味で、次の発言はまったく驚くに当たらない。

ハンセンもベイラーも、ともにこの10年を振り返ったとき、こう言った。「驚きは、日本人がここでプレーしていることじゃない。彼らにそのポテンシャルがあることは、ずっと前から感じていた。ただ、彼らがメジャーのトップ選手となり、レコードブックに名を残すような活躍を見せていること。それは、さすがに10年前には想像できなかった」


先発投手として先陣を切った野茂や、抑え投手として先陣を切った佐々木、外野手として先陣を切ったイチローのような存在が「レコードブックに名を残すような活躍」をしてきたからこそ、その後に続く選手たちに道が開かれたのである。

1995年、野茂が日本人大リーガー初の先発投手として登板。これまでは「ジャイアンツの村上」というわずか数試合に出場しただけの選手が伝説の名前として刻まれていたにすぎない。

し かし野茂が出てきて1995年に16勝し、1996年にノーヒットノーランをしてもなお、それは「日本人は先発投手としては使えるらしい」というだけのことにすぎなかった。その後、「ハマの大魔神」こと佐々木が抑えとして活躍し、はじめて「抑え投手」としても能力があることが証明された。それでもなお「投手としては使えるが、野手としてはどうか」という疑念があった。

2001年にイチローが来て、いきなり首位打者、ゴールドグラブ、リーグMVPをとってもなお、それは「日本人は外野手としては使えるらしい」というだけのことにすぎなかった。その後、松井秀喜は勝ち組やSHINJOは負け組となったが、外野手はコンスタントに取られるようになった。

日本人選手は未だ内野手としては完全に能力を認められていない。二塁手として は井口、内野で最も難しいポジションと言われる遊撃手には松井(稼)や中村が挑戦しているが、完全に勝ち取ったと言えるようになるにはまだ時間がかかるだろう。現在の日本人選手の壁は、したがって内野手レベルである。

しかし、未だ挑戦すらされていないさらに困難なポジションがある。それは、キャッチャーである。なぜならキャッチャーはコミュニケーション能力が最も問われる、すなわち「言葉の壁」が最も高いポジションだからである。来年、ソフトバンクス(旧ダイエー)の城島健司が挑戦すると言われているが、はたしてどうなるか。

これらのことはすべて学問研究にも当てはまる。海外で研究に従事する研究者はいちいち能力を証明していかなければならない。ある分野はこなせても、他の分野がだめなら、トータルの力がないと言われてしまう。また、認められやすい分野とそうでない分野がある。語学の壁が相対的に低い自然科学分野にはすでに多くの優秀な学者がいて国際的に認められている。最も語学の壁が高いのは哲学・文学研究である。ここで認められるのはなかなか…。


3.「記録より記憶に残るプレーを」ではなく、「記録によって記憶に残るプレーを」

大リーグに行ったというだけなら、もはや珍しくもなんともない。SHINJOの「記録より記憶に残るプレーを」というのは確かに名言ではある。しかし、記録か記憶かという二者択一にこだわる必要はない。より望ましいのは、そしてもちろんより困難なのは、記憶に残るような記録を残すことである。

試合前の打撃練習。ケージに向かうイチローの背中を見ながら、ベイラーコーチは首を振った。「いったい何人の選手たちが、その記録に挑んできたと思うんだ?ロッド・カルーもできなかった。ジョージ・ブレットもできなかった。ピート・ローズだってできなかった。それを日本人が、さらっとやってのけてしまっ
た。教えるというより、こちらが学ぶことの方が多いよ」


ここまで言われるようになれば、大したものだ。先日、 フランスのテレビで、アインシュタインの特殊相対性理論百周年を祝う番組をやっていた。そう言えば、アインシュタイン本人も、自身の専門領域のみならず平和運動や公民権運動などにおいても、「海外で活躍した選手」の代表例である。物理学者のカク・ミチオが登場してコメントしていたけれど、堂々としたものだった。

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