Friday, May 20, 2005

デーゲーム(上)

エリートについて書いたが、あれはあくまでも制度に関するものであり、人間に関するものではない。ひとたび制度が確保されたなら――しかしこれが現在の日本では絶望的に困難なのだ――プロがその中でやることはエリートであろうとなかろうとさほど違わない。したがって大事なのは「世の中にはエリートばかりいるわけではない」といった「庶民の目線」をもつことではない。そういうポピュリズムで世の中が変わるなら、日本はとっくに変わっているはずではないか。

重要なのは、制度改革と個人的な質の向上を区別することである。ここでは、個人としての学者のほうに話を移そう。ここでもまた、スポーツの比喩がヒントを与えてくれる。

スポーツ関連の記事で興味深いのは、技術や練習方法に関するちょっとした記述である。「汗と涙」とか「遺恨勃発」とか、スポーツ新聞の記者によって捏造された人間ドラマはどうでもいい。スポーツが提起する中心的な問題は身体技術の問題(そしてそれに関連する限りでの≪精神的な技術≫の問題)であって、感情は副次的な付随物にすぎない。

2005年5月18日の日ハムとの交流戦で通算449二塁打を打って、福本豊(阪急)のもつ二塁打の日本記録に並んだ中日・立浪は、「野球エリート」である、とある記事は言う。

エリート、18年目の勲章 抜群の野球センス
 レギュラーを張り続けてきた証しがプロ野球記録として結実した。18歳でプロの世界に飛び込んでから18年。積み上げた二塁打の数は449本に到達した。「野球エリート」。立浪ほどこの言葉が似合う選手はいない。中学時代、大阪の高校野球関係者の関心事は「立浪はどこの高校に行くか」に絞られていたという。強豪、PL学園に進んで1987年には甲子園で春夏連覇を達成。素材の良さは際立っていた。
 立浪を獲得した中田スカウト部長は当時を振り返り、「野球を見る目はもちろん、守備力がずばぬけていた。脱臼してコンバートされたが、15年はショートはいらないと思った」と話した。高校出ルーキーとしては22年ぶりに開幕の大洋(現横浜)戦に遊撃手で先発出場。6回には将来を予感させるかのように、初安打となる二塁打も放った。
 新人王を獲得し、高校出ルーキーでは史上初のゴールデングラブ賞も同時に受賞。故障に泣いたこともあったが、常に中心選手としてチームを引っ張り、1年目など3度のリーグ優勝も経験した。輝ける野球人生。しかし、「今は誇れるものは何もない。終わってから、最高のプロ野球人生を送れた、と思えるように頑張りたい」と立浪は言い切る。“挑戦”はこれからも続く。(了)[ 共同通信社 2005年5月18日 22:18]http://sportsnavi.yahoo.co.jp/baseball/npb/headlines/20050518-00000056-kyodo_sp-spo.html

なるほどそうなのだろうが、正直言って、つまらない平凡な記事だ。こちらのほうが面白い。
1メートル73、70キロ。決して体格に恵まれていない。試合前、“恋人”の平沼打撃投手を相手に緩い球でスイングの速さを確かめる。数分後、距離を約10メートルに縮めて速球を打ち込む。目を慣らすため。一歩間違えば大怪我ににつながるから相棒は1人。「練習でいい当たりはいらない」。プロで生き抜くための知恵の結晶が大記録につながった。(…)決して才能だけでは頂点には立てない。本塁打のように派手ではない。だが、だれにも踏み込めない聖域を作り上げてみせる。
http://sports.yahoo.co.jp/hl?c=sports&d=20050519&a=20050519-00000025-sanspo-spo

(ちなみに普段は笑わせる福本だが、この日のコメントは真面目。 「記録達成は彼の広角打法のたまもの。記録に並ばれて寂しいというより、二塁打記録が脚光を浴びてうれしい。今後もどんどん記録を伸ばしてほしい。」 [ 共同通信社 2005年5月18日 22:16 ] )

まったく偶然だが、同日の記事。こちらは、今のところ大記録とは縁がないが、阪神・桧山である。


出場機会が減った今季。外野の守備練習を終えた後、何度もショートの位置に立っていた。誰に指図を受けたわけではない。ひたすら、フリー打撃の打球を追っていた。「打球は速いし、これが目慣らしになるからね。回転とかも全部違ってくるし。バッティング練習だけだと分からないし、鈍らないようにね」。バッターボックスに生きる男が、そこに生きがいを見つけるため―。オフの自主トレ中には、携帯電話の動画で、自分のバッティングを撮影したこともあった。「小さいけど、肩の動きとか分かるから」。ひっそりと、それでも重い汗を流す。華やかな世界に身を置きながら、地道に踏みしめる一歩を忘れない。この信念が、マンモスを揺るがした。
http://sportsnavi.yahoo.co.jp/baseball/npb/headlines/20050519-00000015-spnavi_ot-spo.html

練習時は試合のときより速い球で練習する。試合で完全なプレーをそつなくこなすためだ。

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