Thursday, October 24, 2002

"Le toucher, Jean-Luc Nancy"(2000)

 デリダの350頁近い大著"Le toucher, Jean-Luc Nancy"(2000)は、ナンシー
のほぼ全ての著作を"Le toucher"という言葉で読み解いてみせる。

 "Le toucher"というのは、フランス語の特性を活かした言葉で、leを定冠
詞、toucherを名詞ととれば、the touch(触覚)となるが、leを人称代名詞、
toucherを動詞原形ととれば、touch him/it(彼・それに触れること)となる。

 デリダは、ナンシーの思想における触覚(le toucher)の概念の重要性、と
同時にその危うさ、曖昧さを、彼にそっと触れる(le toucher)ような形で、つ
まり距離をとりすぎるのでも、同一化してしまうのでもない紙一重のところに
留まりつつ、指摘してみせる。

 この微妙な距離どりをどうやって実現するのか。十歳年上のデリダが後輩に
して友人のナンシーに、愛情に満ちた厳しさで、彼の哲学史理解(とりわけア
リストテレスについて)の不十分と、そこから来る彼の哲学の問題点をたしな
めつつ(第一部)、触覚概念の系譜(とりわけ1.メーヌ・ド・ビランからメ
ルロに至るフランス・スピリチュアリスムの流れ、2.ドイツにおけるハイデ
ガー、フッサールの現象学、3.マリオン、マルディネらのフランス現象学
派)を自ら辿りなおしてみせることで、それらの伝統からナンシーの独自性を
切り離そうと試みる(第二部)ことによって、である。

 "Le toucher"は、デリダの他のモノグラフィー同様、Gift(英語で言えば贈
り物、独語で言えば毒)、友人の哲学者への毒入りの贈り物である。 hf

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