『愛を考える』(既出)第4章は、キリスト教的(パウロ的)な愛概念の出現を際立たせるべく、一世紀までのローマを「堕落と退廃に満ちていたようにも思われる」が、「古代地中海世界での性をめぐる事情は、1世紀後半を境に少しずつ変化が起きている」という。
この主張の根拠として引用されているのが、本村凌二の『ローマ人の愛と性』(講談社現代新書、1999年)である。「彼[本村]によれば、性にまつわる事柄を『汚らわしい』ものとして忌み嫌う意識が、だんだん強くなっている。『言い換えれば、性的事象を日常世界から排除する意識、あるいは異常なものとみなす意識が、徐々に表れ出てきているのである』[本村]」。
もちろん第4章全体を通じて「キリスト教が性概念の変革を引き起こした」などという単純な主張はなされていない。1世紀後半にパラダイムチェンジがあり、「このような変化の時期に、キリスト教は地中海世界に広まっていった」とされている。「性的不品行から離れるようにしなさいという倫理的な教えや結婚に関する記述が、新約聖書の書簡にしばしば見られるのも、このような風潮を反映していたと考えることができる」。問題は、「堕落と退廃」が満ちた原因である。
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