Saturday, June 06, 2009

アリストテレスの入門書(1)

プラトンに比べて、アリストテレスの適当な入門書がないという印象がずっとあった。岩波新書でアリストテレスの全体像を伝えてくれる新書がずっとなかったのが大きい気もするし――後述するが、1977年に岩波新書から刊行された山本光雄の『アリストテレス』は副題のとおり「自然学・政治学」に限定されている――、大阪府立大学の山口義久さんの『アリストテレス入門』(ちくま新書、2001年)が渡仏中に出版されていて気づいていなかったということもあるのだろう。

そういうわけで一から勉強し直し(没年はかなり調べたが分からないものが多かった)。

中畑正志(1957-)「アリストテレス」、『哲学の歴史』第1巻(哲学誕生)、中央公論新社、2008年。

コラム「プラトンとアリストテレス」もよかったが、最新の情報に基づき、ほぼトータルな解釈を与えてくれる良質の入門論文。「ほぼ」と書いたのは、美学的な側面への言及がないからである。ちなみに、彼の手になる参考文献には「簡便な入門書」として、出隆の古典的名著『アリストテレス哲学入門』(1972年)と山口義久の『アリストテレス入門』(2001年)は挙がっているが、今道友信『アリストテレス』はない…。

「トータル」とはいえ、分量は多少不均等で、

1.序および伝記的部分(26頁)
2.論理学(26頁) 3.自然の探究(13頁) 4.魂論(10頁) 5.形而上学(22頁) 6.倫理学・政治学(22頁)

となっており、論理学が比較的詳しく紹介され、逆に自然学の部分が薄いのは否めない。中畑氏は現在京大教授、京大出版で『魂について』を翻訳されている。


戸塚七郎(1925-)「アリストテレス」、『新岩波講座 哲学』第14巻(哲学の歴史1)、岩波書店、1985年。

上の『哲学の歴史』が少なくとも大哲学者に対してはかなりの頁数を割くことができ、小さな入門書の体をなしているのに対し、岩波の講座シリーズはどれも「論文」程度の長さという制約がある。アリストテレスのようにその学問的関心がきわめて多方面にわたっている場合、この短い頁数でそれらの多面性を紹介しようとすると、幕の内弁当的になってしまう。

その弊を避けるべく、戸塚氏は、それら諸分野の研究を貫く幾つかの中心概念や主要理論が、各研究独自の展開を妨げることなしに、相互に結びつき、全体としての統一を見せている点に注目し、「骨格となる主要理論に焦点を絞って、その展開として彼の思想の全体像を概観する」という戦略をとる。

1.生涯と著作(4頁)
2.実在問題――実体――(5頁) 3.原因(形相・質料)、現実態―可能態(4頁) 4.不動の動者(6頁) 5.結び(3頁)

私はラファエロの「アテナイの学堂」の中で、プラトンとアリストテレスが、緊張に満ちた対立関係を保ちつつも、互いの目をしっかり見据え、一緒に歩み続けている点を授業で強調したので、戸塚氏が「批判は単純にプラトンとの離反を意味するものではない」と言っているのを見つけたときは嬉しかった(ただし、彼はアリストテレスの「冷静な哲学者の目」、つまり師プラトンの教えをも単なる一先行教説として突き放して見ていることを強調するために、そう言っているのだが)。

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