以下、とある紹介文から一部抜粋。
■「声のはじまり」/忘れっぽい天使
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第62回 「臭い」のある世界
─黒坂圭太監督アニメーション映画「緑子 MIDORI-KO」
噂のアニメ映画『緑子 MIDORI-KO』を見てきた(アップリンク・ファクトリー)。いやあ、面白かった。
こういうコンセプトの作品が他にないとは言わないが、
ここまで手法を徹底してやり遂げた作品というものは少ないだろう。実験性と大衆性が互いを豊かにしあっている。アート・
アニメーショ
ンもここまできたか、という印象だ。
監督の黒坂圭太は1956年生まれ。武蔵野美術大学油絵学科を卒業後、『薔薇の葬列』や『ドグラ・マグラ』監督として知られる松本俊夫に師事した。アヴァンギャルドとしての気概と、実験をしながら観客にアピールする術を、二つながら彼は松本俊夫から学んだようだ。しかし、黒坂は実写映画には進まず、アートアニメーションという茨の道を突き進むことになる。何よりも「絵」に対し、興味があったのだろう。『ソナタ第一番』のような純粋な抽象アニメーションから『春子の冒険』のようなSFファンタジーの体裁を取ったストーリー映画を経て、遂に10年の歳月をかけた『緑子 MIDORI-KO』の完成に至る。
(…)本作のストーリーは一言で言ってハチャメチャなもの。
食料危機に備えるために、
5人の科学者たちが野菜であり肉である新食品の開発に取り組んで
いた。ある日、1万年に一度だけ地上を照らすという「
マンテーニャの星」の光の力により、夢の食品「MIDORI-KO」が生まれる。しかし、
それは研究所を飛び出し、
植物の研究をしている学生ミドリに保護されることになる。赤ん
坊のような顔を持つ「MIDORI-KO」を、
ミドリは大切に飼育するが、その存在に気がついたアパートの住民や科学者たちに追われる羽目
になる。どうする、ミドリ???
この55分の作品は、
色鉛筆による3万枚もの絵から成り立っているが、何と黒坂圭太がほぼ一人で描いたという。
いかにも手描きといった感じの繊細極まりない微妙な味わいは、手作業への愛から生まれたのだ。
ある画面から次の画面に移り変わる際、輪郭がゆっくり崩れ、
霞が晴れるようにもこもこと新しい場面の姿が現れる様は感動的。記号的ないわゆる「アニメ絵」
的でない、と
ことん味わいを重視した複層的な描線。
それは想像力を刺激して止まない。観客は、次にどのような画像が出現するか、
ドキドキしながら見守ることになるのだ。
(…)人と怪物、生物と無生物、食と排泄の間の区別を取っ払い、
互いを自由に行き来させる世界観。これは、宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」
のベースにある世界観と通じるものがあるように思える。
妖怪たちで溢れかえったあのマンモス旅館は、善も悪も、
聖も俗も飲みこむ強大なパワーを持っていた。しかし、作品を世界的なヒットに導かなければならない宮崎駿は、
対立するもの同士の間に同一性を認める過激さを、封印しなければならなかった。「
実験映画」畑の作家である黒坂圭太に、遠慮しなければならない理由はない。
黒坂圭太は、常識的な概念の区分をなくすことで、
個々の対象の持つ個性を際立たせ、独特の「臭い」を持たせることに成功している。不気味ではあるが、
ユーモアがあって暖かい。(…)
*黒坂圭太監督映画「緑子 MIDORI-KO」
アップリンクX(9月24日~)より全国順次公開。
*参考図書
金子 遊編著『フィルムメーカーズ 個人映画のつくり方』
(アーツアンドクラフツ刊行 2,625円)
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